やはり抗酸化物質は必要である
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http://www.cancerit.jp/11996.html
抗酸化物質は、フリーラジカルとして知られる不安定な分子が引き起こす損傷から細胞を保護します(質問1、3参照)。

・抗酸化物質は、癌と関連するフリーラジカルによる損傷を妨ぐことが研究や動物実験で示されていますが、最近のヒトでの研究(臨床試験)では、結果が一貫していません(質問2参照)。

・抗酸化物質は、さまざまな果物や野菜などの健康的な食事によってもたらされます(質問4参照)。

1. 抗酸化物質とは何ですか?

抗酸化物質は、フリーラジカルとして知られる不安定な分子が引き起こす損傷から細胞を保護する物質です。フリーラジカルによる損傷は癌を引き起こすことがあります。抗酸化物質はフリーラジカルと相互作用し、安定化させ、フリーラジカルが引き起こす可能性のある損傷の一部を防ぎます。抗酸化物質にはベータカロチン、リコピン、ビタミンC、E、Aなどの物質などがあります。

2. 抗酸化物質で癌を防ぐことができますか?

化学的研究、細胞培養研究、動物実験での多くの臨床データで、抗酸化物質は癌の発現を遅らせたり、予防したりする可能性があることが示唆されていますが、最近の臨床試験での情報はあまり明白ではありません。近年、大規模ランダム化試験では結論が一致していません。

3. これまでに発表された大規模臨床試験では何がわかっていますか?

1990年に発表された5つの大規模臨床試験では、抗酸化物質の癌への影響について結論が分かれました。これらの試験では、ベータカロチンとその他の抗酸化物質の癌に対する影響を、異なる患者集団を対象に調べました。その結果、ベータカロチンの影響は患者集団によって異なると考えられました。各試験の結論を以下にまとめます。

・抗酸化物質と癌リスクに関する最初の大規模ランダム化試験は1993年に発表されたChinese Cancer Prevention Studyでした。この試験では、ベータカロチン、ビタミンE、セレニウムの組み合わせの癌に対する影響を、胃癌のリスクが高い健康な中国人の男女を対象に調べました。本試験では、ベータカロチン、ビタミンE、セレニウムの組み合わせにより、胃癌および癌全体の発生率の有意な減少が示されました(1)。

・1994年の癌予防試験「アルファトコフェロール(ビタミンE)/ベータカロチン癌予防試験(ATBC)」によると、フィンランドの男性喫煙者の肺癌発症率はベータカロチンで有意に増加し、ビタミンEの影響は認められませんでした(2)。

・別の1994年の試験「ベータカロチンおよびレチノール(ビタミンA)の有効性試験(CARET)」でも、抗酸化物質に関連する肺癌リスク増加の可能性が示されました(3)。

・1996年の医師を対象とした健康に関する研究(PHS)では、米国の男性医師が摂取したベータカロチンおよびアスピリンに関連する癌発症率に変化は見られませんでした(4)。

・1999年の女性の健康に関する研究(WHS)では、45歳以上の女性の癌および心臓血管疾患予防におけるビタミンEとベータカロチンの影響を調査しました。健康であると思われる女性では、ベータカロチンサプリメントによる利点も害もありませんでした。ビタミンEの影響については現在調査中です(5)。

4. 現在大規模臨床試験で調査中の抗酸化物質はありますか?

3つの大規模臨床試験で抗酸化物質の癌に対する影響を引き続き調査しています。これらの試験の目的は下記のとおりです。臨床試験の詳細は、http://www.cancer.gov/clinicaltrials、http://www.clinicaltrials.gov あるいは、RePORT Expenditures and Results (RePORTER) query tool (http://projectreporter.nih.gov/reporter.cfm)で閲覧できます。

・45歳以上の米国の女性医療関係者の癌の一次予防におけるビタミンEの影響を現在WHSで評価しています。WHSは2004年8月に終了予定です。

・セレニウムとビタミンEの癌予防効果試験(SELECT)は米国、プエルトリコ、カナダで実施中です。SELECTでは、セレニウムやビタミンEのサプリメントが50歳以上の男性の前立腺癌を予防するかどうかを調べています。SELECT試験は2006年5月に患者の募集を終了する予定です。

・医師を対象とした健康に関する研究Ⅱ(PHS II)は、同名の初期の臨床試験のフォローアップ試験です。この試験では、ビタミンE、C、総合ビタミン剤の前立腺癌および全癌発症率に対する影響を調べています。PHS II は2007年8月に終了予定です。

5. 米国国立癌研究所(NCI)はベータカロチンの癌に対する影響を引き続き調査しますか?

ATBCおよびCARETの予想外の結果やPHSおよびWHSでベータカロチンの影響が見られなかったことから、NCIはこれらの試験に参加した患者の追跡調査を行い、ベータカロチンサプリメントの健康への長期的な影響を調べます。試験後のフォーアップについては、CARET、ATBC、Chinese Cancer Prevention Study、皮膚癌および大腸ポリープの2つの小規模試験にNCIが資金を提供しています。試験後フォローアップの結果は、ATBCについては公開されており、CARETは2004年7月時点で近日中に公開予定、Chinese Cancer Prevention Studyはとりまとめ中です。

6. 抗酸化物質はどのように癌を予防するのですか?

抗酸化物質は、正常な細胞作用の自然な副産物としてのフリーラジカルを中和します。フリーラリジカルは不完全な電子核を持つ分子であり、その電子核により、完全な電子核を持つ分子よりも化学反応性が高くなっています。タバコの煙や放射能など、さまざまな環境因子への暴露によってもフリーラジカルが形成されます。ヒトにおいて最もよく見られるフリーラジカルの形態は酸素です。酸素分子(O2)が帯電したり「ラジカル化」したりすると、他の分子から電子を奪おうとし、この時にDNAや他の分子に損傷を与えます。そのような損傷は時間とともに修復不能になり、癌などの病気を引き起こします。抗酸化物質はフリーラジカルを「拭き取る (mopping up)」と言われることがあるように、電荷を中和させ、フリーラジカルが他の分子の電子を奪わないようにします。

7. 抗酸化物質はどの食品に豊富ですか?

抗酸化物質は果物や野菜のほか、ナッツ、穀物、一部の肉、鶏肉、魚などの食品に豊富に含まれます。下表に一般的な抗酸化物質の供給源を挙げます。

・ベータカロチンはサツマイモ、ニンジン、カンタロープ、スカッシュ、アンズ、カボチャ、マンゴーなどオレンジ色の食品の多くに含まれます。カラードグリーン、ホウレンソウ、ケールなどの緑葉野菜もベータカロチンが豊富です。

・目の健康との関連性でよく知られているルテインは、カラードグリーン、ホウレンソウ、ケールなどの緑葉野菜に多く含まれています。

・リコピンは、トマト、メロン、グアバ、パパイヤ、アンズ、ピンクグレープフルーツ、ブラッド・オレンジなどに含まれる強力な抗酸化剤です。米国でのリコピンの食事摂取の85%はトマトとトマト製品によるものであると推定されています。

・セレニウムは抗酸化栄養素ではなく鉱物ですが、抗酸化酵素の成分です。ほとんどの国々で、コメや小麦などの植物性食物はセレニウムの主な食事供給源です。土壌中のセレニウムの量は地域によって異なり、それによってその土地で栽培される食物に含まれるセレニウム量が決まります。セレニウムの豊富な土壌で栽培された穀物や植物を食べる動物の筋肉中にはより多くのセレニウムが含まれています。米国では、肉とパンが食事性セレニウムの一般的な供給源です。ブラジルナッツにも大量のセレニウムが含まれています。

・ビタミンAは、レチノール(ビタミンA1)、3,4-ジデヒドロレチノール(ビタミンA2)、3-ヒドロキシレチノール(ビタミンA3)の主に3つの形態で見られます。ビタミンAの豊富な食材は、レバー、サツマイモ、ニンジン、牛乳、卵黄、モッツァレッラチーズです。

・ビタミンCはアスコルビン酸とも言われ、多くの果物や野菜に豊富に含まれ、穀物、牛肉、鶏肉、魚にも含まれます。

・ビタミンEはアルファトコフェロールとしても知られ、アーモンドや小麦胚種油、ベニバナ油、コーンオイル、大豆油などの数多くの油に含まれ、マンゴー、ナッツ、ブロッコリーなどにも見られます。

参考文献

1.Blot WJ, Li JY, Taylor PR, et al. Nutrition intervention trials in Linxian, China: supplementation with specific vitamin/mineral combinations, cancer incidence, and disease-specific mortality in the general population. J Natl Cancer Inst 1993;85:1483–91.
2.The Alpha-Tocopherol, Beta Carotene Cancer Prevention Study Group. The effects of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers. N Engl J Med 1994;330:1029–35.
3.Omenn GS, Goodman G, Thomquist M, et al. The beta-carotene and retinol efficacy trial (CARET) for chemoprevention of lung cancer in high risk populations: smokers and asbestos-exposed workers. Cancer Res 1994;54(7 Suppl):2038s–43s.
4.Hennekens CH, Buring JE, Manson JE, Stampfer M, Rosner B, Cook NR, et al. Lack of effect of long-term supplementation with beta carotene on the incidence of malignant neoplasms and cardiovascular disease. N Engl J Med 1996;334:1145–9.
5.Lee IM, Cook NR, Manson JE. Beta-carotene supplementation and incidence of cancer and cardiovascular disease: Women’s Health Study. J Natl Cancer Inst 1999;91:2102–6.