興味深い記事があったので報告する。http://rate.livedoor.biz/archives/50386369.html
ミオスタチンが筋肉の発達に関して重要であることがわかってきたのは最近のことである。この記事も2007年に出ているが、今はすでにミオスタチンを遺伝子的に操作して筋肉量が増えるようにするドーピングなども話題に上がっている。
筋肉量を増やすこととスポーツの成績は一致しないが、パワーリフテイングやボデイビルデイングなどの筋力系のスポーツでは注目が集まっている。
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“超人”は実在する ― 現時点で100人の存在を医学的に確認、うち1人は心臓疾患が自然治癒し生後5ヶ月で十字懸垂
生身の肉体が超人的な強靭さと超人的な運動能力を併せ持つ。そんな超人たちの神話や伝説が古来から世界各地で語り継がれてきた。歴史上の人物が後の世に超人として語り継がれてきた例も多い。とても実在するとは思えず、実在の人物の場合も大げさに脚色されているだけであるかに見える。だが、最近の医学的発見により、われわれ人類の中には、ごくまれに“超人”が生まれることが明らかになってきた。
米国ミシガン州ルーズベルト・パークにリアム・フックストラちゃんという現在1歳7ヶ月の男の子がいる。彼の体重は10キロほど。米国の標準を下回っている。彼の体には脂肪がほとんどない。その代わり、筋肉が普通の子供より40パーセントも多い。腹筋は見事に割れている。そして、後述するように、その肉体は驚くべき強靭さを持ち、常識破りな運動能力を持つ。
彼は、生後すぐに実の両親ではないフックストラ夫妻に引き取られた。夫妻は、リアムちゃんのことを「ハルク」、「ヘラクレス」、「ターミネータ」などと呼ぶこともある。彼は疾風のように走り、猫のような敏捷さを持ち、家具を持ち上げ、もう今日しかないかのように食べ物をむさぼり食う。だが脂肪はつかない。ものすごい勢いでエネルギーを代謝してしまうからだ。
リアムちゃんは、古来から語り継がれてきた超人たちの一員なのかもしれない。医学的には、“ミオスタチン関連筋肉肥大”(myostatin-related muscle hypertrophy)と診断されている。これは、いわば遺伝的に引き継がれた“超人的体質”なのだ。
では、リアムちゃんの肉体がいかに超人的であるかを具体的に示していこう。
彼の腹筋は、洗濯板のように割れている。大腿部も筋肉隆々である。
生後わずか2日にして、両足で立つことができた。もちろん自力で立ったわけではないが、体を支えてやると両足で立ったという。(しかも驚くべきことに、4週間の早産だった)。
生後5ヶ月のころから両手を持ってやれば十字懸垂の姿勢を取るようになった。体操選手が吊り輪で取るあの姿勢である。
8ヶ月になるまでに、棒などにぶら下がって懸垂をするようになった。
9ヶ月ごろには、階段を自力で昇り降りするようになった。
1歳7ヶ月の現在では、高い場所に足をかけ、頭が真下を向く姿勢から腹筋運動をやってみせる。
転倒しても、絶対に頭を打つことがない。後ろ向きに倒れた場合は、強靭な腹筋が作動して彼の上体を垂直に近い状態に戻すので、必ずヒップから着地する。
かんしゃくを起こして振り回した拳が当たり、母デナさんの目の周りに青あざが出来たこともあれば、しっくいの壁に穴が開いたこともある。
上記のように生後2日にして両足で立ったといえ、その時点では、リアムちゃんが“神の子”だとは誰も知らなかった。それどころか、彼は健康からほど遠い虚弱な体で生まれてきたと思われていた。実際、以下のように生まれつき、さまざまな問題を抱えていた。
4週間の早産
心臓に小さな穴
腎臓腫大
アトピー
乳糖不耐症
胃食道逆流症
ところが心臓の穴と腎臓の腫大は、生後数ヶ月で自然治癒してしまった。胃食道逆流症は厄介な問題で、毎日何回も嘔吐していた。だが、この症状も1歳半ごろに収まった。
さて、“ミオスタチン関連筋肉肥大”(myostatin-related muscle hypertrophy)とは、どのような体質なのだろうか? まず、ミオスタチンとは、筋肉の成長を抑制する蛋白質である。このミオスタチンが生成されなかったり、筋肉に受容されなかったりすると、筋肉がどんどん成長することになる。
ミオスタチン関連筋肉肥大には、以下の2つのタイプがある。
遺伝変異による場合
まれに、ミオスタチンを作り出す遺伝子が変異している人がいる。医学文献によれば、この遺伝変異を有する人は、筋量が常人の2倍にまで達する可能性がある。
筋細胞がミオスタチンを拒否する場合
体内でミオスタチンが生成されていても、筋細胞がミオスタチンを受容しない人がまれにいる。このタイプの人は、筋量が常人の1.5倍にまで達する可能性がある。
リアンちゃんは、後者のタイプである。この2つのタイプは筋量に違いがあるが、どちらのタイプの場合も骨格筋が平均をはるかに超えるレベルまで成長し、極めて強靭な肉体が形成される。そして、摂取カロリーがものすごい勢いで代謝され、体脂肪がほとんど蓄積されない(このことが後述するような問題を生むのだが)。
ミオスタチン関連筋肉肥大の存在が科学的に報告されたのは、1990年代後半のことであり、最初は蓄牛とマウスで見つかった。1997年、ボルティモアのジョンズ・ホプキンス大学の研究者たちがベルギーブルー種の蓄牛の遺伝子を調べたところ、ミオスタチンを生成する遺伝子に変異があることが判明した。ベルギーブルー種は、他の品種よりも筋量がはるかに多いことで知られている。さらに、マウスを使った実験でミオスタチン遺伝子を非活性化したところ、マウスの筋量を増やすことができた。
そして、ヒトにおけるミオスタチン関連筋肉肥大の存在が初めて確認されたのは、つい最近の2000年のことである。通常児の2倍の筋肉を持つ赤ちゃんがドイツで発見されたのである(ただし、医学文献として報告されたのは2004年のこと)。
その後、ジョンズ・ホプキンス大学の調査研究により、ミオスタチン関連筋肉肥大を有する人が世界各国で100人ほど見つかった。今のところ、ミオスタチン関連筋肉肥大は非常にまれにしか生じないと見られており、全世界にいったい何人の“超人”たちが存在しているのかは不明である。
そして、リアンちゃんもミオスタチン関連筋肉肥大と診断された1人である。検査の結果、ミオスタチン遺伝子に変異があるタイプではなく、筋肉がミオスタチンを受容しないタイプであることが確認されている。
ジョンズ・ホプキンス大学の研究者たちは、ミオスタチン関連筋肉肥大の研究を進めるに当たって、リアンちゃんにも筋肉の生検などを含む詳細な検査を受けてもらいたいと考えていた。だが、生検では組織の一部を採取して体外に取り出すわけで、かなりの苦痛を伴う。両親はそれを心配していたが、結局、その後の調査でミオスタチン関連筋肉肥大と診断された人(成人)が100人ほども見つかったので、リアンちゃんは痛い思いをせずに済むことになった。
ミオスタチン関連筋肉肥大の研究は、筋ジストロフィーや骨粗しょう症などの消耗性疾患の新しい治療法の発見につながるのではないかと期待されている。むろん、スポーツ界からも注目を浴びつつあり、おそらくは軍事目的での利用も検討されることになるのだろう。
さて、せっかく“神の子”として生まれても、環境が伴っていないと“超人”にまで成長することは難しいらしい。リアムちゃんがそうであるように、その体脂肪のほとんどない体と猛烈な代謝のせいである。乳幼児の脳が成長し、神経中枢系が発達するには、体脂肪が欠かせないのだ。
乳幼児の体脂肪が不足していると、成長が阻害され、中枢神経系が損傷するおそれがある。リアムちゃんの場合は、体脂肪の不足を補うかのように、1日6回も食事を摂っている。それも、山盛りの食事である。
ミオスタチン関連筋肉肥大の体質を持つ人は、古代から存在していたのではないかと思う。しかし、乳幼児期に体脂肪が不足しているため、食糧事情がよほど良くないと健康に育つことができない。古来から語り継がれてきた超人たちは、たとえ戦乱の世に活躍したとしても、少なくとも乳幼児期には飢えを知らなかったのだろうか。
なお、リアンちゃんの実母は彼を養育できないことから、彼を出産後すぐに養子に出すことになったわけだが、実父に当たる男性は、やはり極めて強靭な肉体の持ち主であったことがその後の調査で判明している。