精神科医に聞く不安との向き合い方「受け流すのも大事」

今のストレスを抱える状況は戦時中に似ている。毎日米軍から戦闘機が送り込まれてきて空襲を受けているようなものだ。空襲は急にきて多くの被害をもたらし、人々を恐怖に陥れる。そして人々はサイレンが鳴ると防空壕に閉じこもる。

そんな時に防空壕を自由に出入りしたり、敵に見つかるかもしれないのに外で火を起こして煙を出そうものならば、非国民と言ってその人物を捕まえ非難し、場合によっては殺傷してきた。それが戦時中の哀れな情報弱者のとれる唯一の自衛の方策だった。

自粛警察の行動をみているとそれに近いものを感じる。学校の野球部の寮でコロナ感染が広がった(感染ではなくて検査で陽性が正しい)すると、学生の名前、実家の住所、家族構成を暴き立ててネット上で非難する。場合によっては感染者の家に張り紙をする。

いわゆる自由をはき違えた犯罪行為である。こういった犯罪心理を国民の多くが持つことは不幸なことだ。寛容な心が大切である。そして事実を正しくみることだ。何が起きているのか、だれが起こしているのか。

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西日本新聞

不安やストレスとの向き合い方について語った宮田雄吾氏

 残暑が厳しい中ですら、新型コロナウイルスの感染が拡大し、全国の累計感染者数は6万人を超えた。感染拡大が長引く中、その不安やストレスと、私たちはどう向き合えば良いのか。精神科医の宮田雄吾・大村共立病院副院長に聞いた。 【画像】「自粛警察」の事例4つ

-感染拡大が長期化している。感染を防ぐ一方、私たちはそのストレスにもさらされる。兆候は何か。

 一般的な兆候は三つのうちのどれかだ。一つは、特に子どもに傾向が強いが、心が悲鳴を上げたときに、食欲がなくなる、頭が痛い、眠れないなど、体の不調が最初に現れる場合がある。二つ目は行動が不安定になることだ。家族の中でけんかが増えるとか、じっとしていないとか。もう一つは、成熟した大人に見られる、落ち込みや不安など精神的症状だ。

-ストレスをためないようにするには。

 まず体調を整えること。十分な睡眠時間の確保や定期的な食事、ほどよく体を動かすというのが基本だ。ストレスを受ける物事自体を減らすのも重要。仕事など自分一人ではきついことを周囲に頼んだり、手伝ってもらったり。あれこれあるときは順番を決めて一つ一つこなすとか。  精神科では、自律神経が過度に不安定なときは薬を使って緊張をほぐし、体の反応が過剰に出ないようにする治療も行う。  受け流すのも大事。コロナ禍が不安でも「感染者の約半数は無症状」とか考え方を切り替えるべきだ。冷静な第三者と話し合えば思い詰めるのも減る。

-子どもたちが心身のバランスを崩した場合、どう向き合えばよいか。

 休校中に生活リズムが壊れ、昼夜逆転の状態になってリズムを立て直せず、学校に復帰できない子どもの相談はある。登校日が急に休校となるなど予定変更も多い。  自閉傾向の子どもには予定が変更されることに弱い場合もあり、心が不安定になりがちだ。今は確かにきついけど、周囲の大人が「大丈夫」と安心した姿を見せることが子どもの不安を取り除く上で大切だ。

-「自粛警察」と呼ばれる動きも。過剰な批判や反応にはどう向き合うか。

 周囲から注意を受けていたのに、知らんぷりして行動する人は確かにいる。軽率さが原因で感染したならばまずは反省し、そこから学びを得てほしい。そして周囲にはその人の成長を期待すべき。寛容な社会が求められている。  自粛を徹底したのに感染した人は本当に気の毒だ。こういう人は感染したからといって謝る必要はない。むしろ周囲の支えが大事で、本人に悪くないことを伝え、「大変だったね」といたわれば絆も強まるはず。

「自粛警察」をやる人はいろんな考えがあるだろう。自分は日ごろ予防するのに、感染者が増え、実害を被るかもしれないと腹が立つのは分かる。だが、批判するなどの行動が社会的に許される範囲かよく考える必要がある。子どものいじめの構図にも似ているが「未熟なところがあるよ」と提案するぐらいでとどめ、腹が立ってもいじめてはいけない。  正義を振りかざすことを金のかからない娯楽にしている自粛警察のパターンもある。これは悪意がある確信犯で、悪質な誹謗中傷として法的手段を取ってもいいと思う。 

 

(古長寛人)    ◇    ◇  宮田雄吾氏 1968年、長崎市生まれ。長崎大学医学部卒。2003年、園長として児童心理治療施設「大村椿の森学園」を開設。現在は同学園主任医師と大村共立病院副院長を兼務。著書に「ストレスに強い人になれる本」「子育てがつらくなったら読む本」など。