師匠の話題をもう一度したいと思います。

師匠の人生を考えてみたときに、私は、印象に残っている話があります。

それは彼が、20代後半の時、実は脳腫瘍なっていたということです。

私はその話を聞いた時、まだ20代の前半でした。
奥さんと師匠がその話をしてるのを聞いて驚きました。

「師匠本当に脳腫瘍なんですか。」

不思議な事に師匠の脳腫瘍はある日突然消えてしまいました。医療関係者ですから。うそではありません。

その時の MRI 検査や、 CT 検査のフィルムについても話をしてくれました。

大脳に大きな腫瘍がはっきりと写っていたと聞きました。
脳腫瘍になって師匠は、歩行ができなくなりました。
頭痛と吐き気に襲われる日々が続きました。

そして、ある日、夢を見たのです。
そこでは、所謂三途の川を渡っている自分の姿があったと聞きました。

そして、三途の川をわたっている自分を師匠のおじいさんが、引き止め

「お前は、こっちへ来てはいけない。帰れ」

と言われたそうです。

そして、その後、師匠の脳腫瘍はなくなりました。
その後、師匠は、口癖のように言い始めました。

「人生1回きり自分の思うように生きなければいけない。
自分が充実する人生を行きなくてはいけない。」

確かに、それ以降の彼の人生には、生きる充実に満ちていました。

一度死んだ人生だったから、これから後は儲けものの人生だと言っていました。

だから精一杯生きていたんだと思います。

彼の口癖は「ピンチのときが人生のチャンスだ。」でした。

私がクリニックを開業して仕事に追われていたときに、一度師匠に会ったことがあります。

開業して業績も上がってきていましたが、色々と辛いことがあった時期でした。

「今が辛い時期かもしれないけど、今からがよくなる。最低だと思っているときが一番やりがいのある楽しい時期だ。」

そして、彼自身忙しくなる仕事を精一杯やっていました。
そして、こういっていたのです。

「今が最高の人生、苦しいときも、楽しいときも、いつでも人生は最高。」

私たちが、彼のもとを訪れると、不思議な楽しい気分に包まれました。

それは彼の持つ素晴らしい価値観のせいだったかもしれません。

また、それは、彼の周りに集まっている明るく楽しい人達が持つ雰囲気だったがも知れません。

私の尊敬する別の友人はこんなことを言いました。
その彼は、私の師匠とは全く別の人生観を持っています。

彼の人生は、論理的であり、目的的で、常に一つの方向にむいています。

その彼は、若い頃熱中していたウエイトリフテイングを止め、大好きだったオートバイもやめひたすら自分の目的ために、すべてをコントロールしています。

長生きをして自分の事業を完成するために、関節を壊すような。スポーツはしない。70歳が来ても、大好きなカラテをするために、致命的なけがをするような。

可能性があるオートバイはやめる彼は、師匠とは全く違います。どちらが正しいとか。正しくないとか、いうつもりはありません。

ただ、仕事一筋になりつつあった私は、師匠の死を見ることによって、自分の中にある。原始的な感情を揺さぶられたのも事実です。

「人生を精一杯に生きること、最低の時期の人生を楽しみ、最高の人生と思え、いつでも人生は最高」

そして、本当に言葉通り師匠の周りには笑顔が絶えなかったことを思うとき、なかなか言葉では言えても、実行することの難しい人生を彼は生きたんだと思います。

師匠と出会えたことを感謝します。

そして、死んでしまっていなくなった今、もう一度会ってあの笑顔に包まれたい気持ちを感じます。

日本に帰ってきて師匠の遺影を見たときに、その横にバイクに乗ってツーリングに出発する直前の写真を見たときに、もう二度と師匠と話できないことに気がついてたまらない気持ちになったことを記しておきます。

きっと師匠はこんなことを書いている僕を見たらこう言うでしょう。

「野中君、人生楽しめよ。仕事も遊びも、全てにおいて。それと、仕事が辛くなっても辛い顔するな!楽しい顔でおれ。俺はいつでも仕事は楽しかったぞ。」