温熱療法に関してhttp://www.cancerit.jp/4810.html に掲載されていたので転記する。
温熱療法は物理療法として最も単純だが、ここにも免疫の秘密があると考えて良いだろう。
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癌治療における温熱療法:Q&A
1. 温熱療法とは?
温熱療法(ハイーパーサーミア、hyperthermia, thermal therapy, thermotherapy)とは、体の組織を高熱(華氏113度(摂氏45.0度)まで)にさらす癌治療です。研究によると、高温により癌細胞を損傷や破壊することが可能で、(1)通常は正常な細胞への損傷も最小限にとどめることができます。 (2)癌細胞を破壊しタンパク質や細胞内の構造を損傷することにより、温熱療法は腫瘍を小さくするのです。
温熱療法は臨床試験(人体における研究)において研究中であり、まだあまり広くは行われていません(Question5参照)。
2.温熱療法はどのようにして癌治療に使用されるのですか?
温熱療法は、ほとんど常に放射線療法、化学療法といった他の癌治療(1,3)と合わせて行われます。温熱療法は、いくつかの癌細胞をより放射線に対して反応しやすくしたり、放射線で損傷できないほかの癌細胞にダメージを与えたりするのです。温熱療法と放射線療法をあわせる際は、しばしば1時間以内にそれぞれの療法を行います。また、温熱療法は、ある腫の抗癌剤の効果を高めることもできます。
多くの臨床試験は温熱療法を、放射線治療や化学療法またはその両方と合わせたものとして研究しています。これらの研究は多くの種類の癌を対象としており、それには肉腫、メラノーマ、頭頚部の癌、脳腫瘍、肺癌、食道癌、乳癌、膀胱癌、直腸癌、肝臓癌、虫垂癌、子宮頚管、腹膜の中皮(中皮腫)などが含まれます(1,3,4,5,6,7)。 これら多くの研究の結果、全てではありませんが、他の療法(1,3,6,7)とあわせて温熱療法を行った場合、腫瘍の大きさに顕著な縮小が見られています。 しかし、これらの研究による全ての結果が、温熱療法をあわせた集学的治療(3.5.7)を行った癌患者の生存率の上昇を示しているわけではありません。
3.温熱療法での異なる方法とはどのようなものですか?
温熱療法のいくつかのやり方が現在も研究中で、局所、領域、全身に温熱療法(1,3,4,5,6,7,8,9)を施すものがあります。
1. 局所温熱療法では、腫瘍そのものといった小さな箇所に高熱を発生させます。腫瘍に熱を与えるには様々な技術を用いられ、それにはマイクロ波、ラジオ波や超音波などがあります。 この局所温熱療法には、腫瘍の場所に応じていくつかの方法があります。
A. ○外部加温  皮膚もしくは下にある腫瘍を治療する場合に使用されます。外部からの照射器具を、目的箇所の周囲あるいは近くに設置し、エネルギーを照射して腫瘍を高熱化します。
B. ○管内または腔内加温  食道や直腸といった体の管腔内もしくはその周辺にある腫瘍の治療に使用されます。 プローブを管腔内へ入れ、そして腫瘍の中に挿し込んでエネルギーを送りこみ高熱を与えます。
C. ○組織内加温  体の奥深いところにある、例えば脳腫瘍といった腫瘍を治療する場合に使用されます。この方法では、体の外から加温するより高温で腫瘍を攻撃することができます。 麻酔をかけた後にプローブもしくは針を腫瘍に挿しこみます。 超音波などの画像処理を行いプローブが腫瘍に対して正しい位置にあるかを確認しながらの治療になります。 そして熱源をプローブに挿しこみます。 高周波アブレーション(RFA)は間質的温熱法を用いた温熱療法で、マイクロ波を使用して癌細胞を加温し殺します。
2. 領域温熱療法では、様々なアプローチを用いて大きな体組織、例えば体腔、臓器や四肢といった部分に熱を加えます。
3. ○体の奥深いところにある組織へのアプローチは子宮頚管や膀胱癌といった体内の癌治療に行われます。外部からの照射器具を対象となる体腔もしくは臓器の周囲へ設置し、マイクロ波やラジオ波のエネルギーを照射して温度を上げます。
4. ○局所潅流法は、メラノーマなどの腕や脚にできた癌もしくは肝臓や肺といったいくつかの臓器にできた癌治療に使用されます。 この方法では、患者の血液の一部を取り出し、そして熱を加えてからまたその血液を四肢や臓器へ再注入(潅流)させます。 通常は抗癌剤もこの治療中に使用されます。
○腹腔内温熱潅流法(CHPP)は、腹腔(腸、胃および肝臓を含む腹部内の空間)にある癌治療に使用される技術で、原発性腹腔中皮腫および胃癌にも使用されます。 手術中に、加熱した抗癌剤が加熱器具を通して腹腔内へと流し込まれます。 腹腔内の温度は華氏106~108度(摂氏41.1~42.2度)になります。
5. 全身温熱療法は、全身に広がった転移性の癌の治療に使用します。 この方法はいくつかの技術を使い、体温を華氏107~108度(摂氏41.7~42.2度)にまで上昇させます。 温熱室(大きな孵化器様のもの)やお湯の毛布が使用されることもあります。
温熱療法の効果は、この療法で与えられる温度や、治療時間の長さ、そして細胞や組織の性質に影響されます(1,2)。 温熱療法中は常に、腫瘍やその周囲の温度が目標の温度に達しているか、または温度を超えていないかが監視されています(3,5,7)。 局所麻酔を使用し、医師は小さな温度計のついた針またはチューブを治療する部位に挿しこんで温度のチェックをします。 プローブの位置が正しいかはCT(コンピュータ断層撮影)などの画像技術が使用されます(5)。
4.温熱療法には合併症や副作用はあるのですか?
ほとんどの正常細胞は、温熱療法が行われても体温が華氏111度(摂氏43.8度)未満に保たれていれば傷つくことはありません。 しかし、部位によって体組織の性質は異なるため、ところどころでより高い体温になってしまうことがあります。 その場合は熱傷、水泡、不快症状や痛み(1,5,7)が現れることがあります。 潅流法では、潅流を行った部位の正常組織に組織の膨張、血栓、出血などの損傷を与えることがありますが、しかしそれらの副作用は一時的なものです。 全身温熱療法ではもう少し大きな副作用として心臓や血管の不調が出ることがありますが、これらの症状はまれです(1,3,7)。 下痢、嘔気や嘔吐は全身温熱療法を行ったあとによく見られる症状です(7)。
5.温熱療法の今後の展望はどうなのですか?
温熱療法が癌治療の標準となるには、まだ多くの課題が残されています(1,3,6,7)。 多くの臨床試験が温熱療法の効果を評価するために現在行われている最中です。 いくつかの試験は異なる癌治療のために温熱療法を他の治療法とあわせて行った場合の研究を続けています。 他の研究は温熱療法の技術を改善することに集中しています。

臨床試験についてさらに知りたい場合は、米国国立癌研究所(NCI)の癌情報サービスまで下記の電話番号に問い合わせるか、インターネットでNCIの臨床試験のページhttp://www.cancer.gov/clinical_trials/を参照下さい。
参考文献
1 van der Zee J. Heating the patient: A promising approach? Annals of Oncology 2002; 13:1173・184.
2 Hildebrandt B, Wust P, Ahlers O, et al. The cellular and molecular basis of hyperthermia. Critical Reviews in Oncology/Hematology 2002; 43:33・6.
3 Wust P, Hildebrandt B, Sreenivasa G, et al. Hyperthermia in combined treatment of cancer. The Lancet Oncology 2002; 3:487・97.
4 Alexander HR. Isolation perfusion. In: DeVita VT Jr., Hellman S, Rosenberg SA, editors. Cancer: Principles and Practice of Oncology. Vol. 1 and 2. 6th ed. Philadelphia: Lippincott Williams and Wilkins, 2001. 
5 Falk MH, Issels RD. Hyperthermia in oncology. International Journal of Hyperthermia 2001; 17(1):1・8.
6 Dewhirst MW, Gibbs FA Jr, Roemer RB, Samulski TV. Hyperthermia. In: Gunderson LL, Tepper JE, editors. Clinical Radiation Oncology. 1st ed. New York, NY: Churchill Livingstone, 2000.
7 Kapp DS, Hahn GM, Carlson RW. Principles of Hyperthermia. In: Bast RC Jr., Kufe DW, Pollock RE, et al., editors. Cancer Medicine e.5. 5th ed. Hamilton, Ontario: B.C. Decker Inc., 2000. ?
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9 Chang E, Alexander HR, Libutti SK, et al. Laparoscopic continuous hyperthermic peritoneal perfusion. Journal of the American College of Surgeons 2001; 193(2):225・29.