毎日新聞 2013年10月17日 東京夕刊
コーヒーをめぐる情報は多々あるがコーヒーに否定的な文献は少ない。今回は数少ないコーヒー否定的な文献の話である。
 一般的にはコーヒーが健康に寄与している考えてよいと思う。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20131017dde012100059000c.html
あの香りをかがないと一日が始まらない人、徹夜で頑張る時には欠かせない人は少なくないだろう。コーヒーは嗜好(しこう)品ではあるが、よく飲む人は病気にかかりにくい−−。そう聞いていたのに、最近は寿命が縮まるとの報告も目にする。果たして健康にいいのか、悪いのか。【大槻英二】
 ◇脂肪の燃焼を促進/妊婦、心臓病の人は注意/1日3杯までを目安に
 <55歳未満でコーヒーを毎日4杯以上飲む人は、飲まない人と比べて死亡率が男性で1・5倍、女性では2・1倍に上る>。今年8月、コーヒー愛飲家に衝撃的なデータが報じられた。米サウスカロライナ大などの研究チームが米医学誌に発表した、約4万人を対象に17年ほど追跡した疫学調査の結果だ。やっぱりコーヒーは「黒」だった?
 コーヒーと健康の関係全般に詳しい国立国際医療研究センター糖尿病研究部長の野田光彦さん(59)は「これまでの数ある疫学調査を統合して解析すると『コーヒーを飲む人の方が寿命が長い』との結果が出ています。逆の結論の論文が一つ出たからといって、従来の見解を変えるほどのインパクトはないでしょう」。とりあえずは、ひと安心。これまで通り飲み続けてもいいらしい。
 コーヒーと病気予防の関係はどこまでわかってきたのか。運動不足などの生活習慣が原因の2型糖尿病については2002年、オランダの研究グループが「1日7杯以上コーヒーを飲む人は、発症するリスクが2杯以下の人のほぼ半分になる」との調査結果を発表した。同じころ、野田さんらも東京都葛飾区での住民調査で「コーヒーを飲んでいる人は血糖値が低い」ということに気づき、糖尿病と診断されていない人のうちコーヒーを週1回以上飲む人は、飲まない人に比べて空腹時血糖値の高い人の割合が小さい、つまり「正常型」の人が多いと報告した。これまでに20を超す論文が発表され、「コーヒーを多く飲む人は糖尿病の発症が少ない」はいわば“定説”となっている。
 いくつかのがんでも同様の傾向がみられ、なかでも顕著なのは肝臓がんだ。厚生労働省研究班の大規模疫学調査によると「コーヒーをほぼ毎日飲む人は、ほとんど飲まない人に比べて肝がんの発症リスクは半分」という結果が明らかに。飲む量が増えるほどリスクが低下する傾向もみられた。
 なぜコーヒーを飲むと発病が抑制されるのか。統計調査では相関関係が明らかになるものの、そのメカニズムまではわからない。他の研究も含め、最近注目されているコーヒーの成分は「カフェイン」とポリフェノールの一種である「クロロゲン酸」だ。
 野田さんによると、カフェインは熱を生み出すのを促す作用があり、エネルギーを熱のかたちで放出することで体内にたまった脂肪の燃焼を促進させるとみられる。しかしカフェイン抜きのコーヒーを飲んでいる場合でも糖尿病の発症率は低いとする米国の報告があり、カフェイン以外の成分として浮上したのがクロロゲン酸だ。抗酸化作用があり、肝臓での糖の生成を抑える効果や、血糖値を下げる働きがあるホルモン「GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)」の分泌を促すとされ、これらの総合的な作用で糖尿病の発症を抑えていると考えられている。ただし既に糖尿病を発症している人への効果はわかっていない。
 クロロゲン酸の働きに着目し、「脂肪を消費しやすくする」とうたう特定保健用食品(トクホ)の缶コーヒーも市販されている。
 運動生理学が専門の東京慈恵会医大客員教授、鈴木政登(まさと)さん(66)は8人の男性被験者にこんな実験を行った。コーヒーを1杯飲んだ後、1時間椅子に座って安静にし、その後に30分間ランニングをしてエネルギー消費量の変化を調べたのだ=イラスト参照。「コーヒーを飲んで運動すると、白湯(さゆ)を飲んだ場合と比べてエネルギー消費量が増え、脂肪の燃焼が促進されることがわかりました。飲んですぐ運動を始めるのではなく、カフェインが体内に吸収される時間を考え、1時間程度たってから運動を始めるのがポイントです」と鈴木さん。ラットにカフェインを与えた実験でも脂肪や体重が減った。コーヒーと運動を結びつけることで、メタボリック症候群の予防にも効果を発揮しそうだ。
 有効成分を効率よく取り入れるには、どんな飲み方をしたらいいのだろう。「がんになりたくなければ、ボケたくなければ、毎日コーヒーを飲みなさい。」(集英社)を今年9月に出版した東京薬科大名誉教授(臨床薬理学)の岡希太郎(きたろう)さん(72)は「深いりと浅いりの豆を1対1でブレンドして、中びきにしペーパードリップでいれる『成分ブレンド』がいい」と勧める。
 岡さんによると、カフェインは熱を加えても含有量や性質は変わらないが、クロロゲン酸は熱に弱く深いりには少ない。一方で、加熱による化学反応でコーヒー独特の香りや色が出るが、その香り成分には抗ストレス作用のあるニコチン酸類が豊富に含まれている。深いりと浅いりをブレンドすることで、こうした成分をまんべんなく取り入れられ、相乗効果が期待できるのだ。
 ただし、野田さんは重い心臓病の人、妊娠・授乳中の女性、腎臓の悪い人は控えた方がいいと指摘する。また、ぼうこうがんについてはコーヒーを飲んでいる人の方が発症率が高いとの報告がある。カフェインが尿に出てぼうこうにたまることが発症に関与しているとみられる。血縁者にぼうこうがんの人がいる場合は要注意だ。
 全日本コーヒー協会の12年の調査によると、日本人はコーヒーを週に10・73杯飲む。1日に約1・5杯だが、適量はどれぐらい? 「明確な基準はありませんが、飲み過ぎても夜眠れなくなりますから、1日3杯程度までを目安にしては」と野田さんは話す。
 健康の基本はバランスのとれた食生活。コーヒーもその一つに位置付けることで、予防効果が期待できるということのようだ。