抗生物質の服用が多いほど乳がんリスクが上昇

 

抗生物質をくださいと指名買いするように来院する患者さんがいる。菌が体内で増殖して疾患の原因となっているならともかく、少し風邪ひいただけで「抗生物質クレクレ」である。

抗生物質の過剰投与は敗血症や耐性菌の発生を促進し、ろくでもないことは我々医師なら熟知している。なのに、患者の攻撃に耐えかねて処方する先生方もいるのだろう。お気の毒にである。

しかし、抗生物質の使用量が発がんに比例するとしたらそれでも患者さんにホイホイと処方できるだろうか?

また、賢い患者になって抗生物質クレクレ患者だけにはならないでほしい。

 

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腸内細菌叢(腸内フローラ)は、整腸作用だけではなく、免疫機能の維持や抗炎症作用など健康維持に重要な役割を果たしていることが明らかになっています。 食生活などの環境要因によって、腸内細菌叢に乱れが生じると、代謝の変化や慢性炎症の惹起により、 肥満、神経疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病)、精神疾患(うつ病や自閉症ADHD)のリスクが高まることが示唆されています。

 

また、アレルギー疾患のリスクも高くなることから、ヨーグルトによる花粉症の症状軽減といった働きも知られています。 腸内細菌叢の乱れを生じる状態に、抗生物質の摂取があげられます。 今日では、腸内細菌叢の重要性が認識されていますが、 特にこの数年、腸内フローラの研究が臨床実践にも応用されるようになりました。

 

腸内細菌叢の重要性を示唆する研究データとして、10年以上も前に、抗生物質の利用と乳がんリスクとの関連を示した研究が報告されていました。(JAMA. 2004 Feb 18;291(7):827-35.) 具体的には、オランダでの症例対照研究として、19歳以上の侵襲性乳がん患者2,266名と、 対照群7953名を対象に、薬局の電子記録に基づく抗生物質の利用と、乳がんリスクとの関連が調べられています。

 

解析の結果、抗生物質の服用日数の累積(合計)が増えるにしたがって、乳がん発症が有意に増加していたということです。 利用日数ゼロを対照群の1としたときに、それぞれの服用日数の累積と、乳がんリスクとの関係は

1-50日:45%リスク増加

51-100日:53%リスク増加

101-500日:68%リスク増加

501-1000日:114%リスク増加

1001日以上:107%リスク増加 でした。(P<.001 for trend).

 

抗生物質の利用と乳がんリスク増大の相関は、 あらゆるクラスの抗生物質において有意に認められたということです。 抗生物質は、細菌感染症には特効薬となりえますが、(腸内細菌も腸内細菌叢の乱れを生じます。 抗生物質の過剰な投与が長期的な健康リスクとなることを明確に示した研究です。

12年前のこの論文では、著者らは、相関関係は明確であるが、因果関係については検証が必要、と考察しています。 しかし、その後の腸内細菌叢に関する研究を考えると、 抗生物質の累積利用が、免疫調節や抗炎症といった腸内細菌叢のバランスを乱すことで、 乳がんの発症に関与すると考えられます。

腸内細菌叢(腸内フローラ)を健康に保つ(善玉菌を増やし維持する)には、 ・プロバイオティクスの摂取、 ・プレバイオティクスの摂取 が重要です。 腸内細菌叢の改善では、食物繊維の有用性はよく知られています。 また、オリゴ糖は、善玉菌を増やす効果がありますので、乳酸菌と一緒にオリゴ糖もとることが大切です。 プロバイオティクスは、様々な有用性が示されています。最近の研究では、次の報告があります。

プロバイオティクスによる脂質異常症改善効果:

メタ解析 プロバイオティクスによるアトピー性皮膚炎の予防効果:

メタ解析 プロバイオティクス摂取による脂質代謝改善作用:メタ解析