記憶の消滅を人為的に起こすことに成功

 

記憶とは厄介なものである。人間の脳の特徴で恐怖や不安やネガテイブな感情の記憶はなかなか頭を離れないとしたものだ。もしこの記憶を消すことが出来れば、PTSDの治療にも使えるだろう。

今回の論文は神経細胞の樹状突起にブルーライトを当てることで細胞が委縮し記憶を呼び起こす機能が障害されたことを示している。精神科の領域で行われている認知療法やEMDRとも全く違う考え方の治療法だ。

脳内ではホルモンによって情報伝達が行われている訳ではない。実は量子間伝達が行われている。これは電子と光子によるものだ。今回の実験はその実証だと思われる。

量子間の情報伝達は瞑想やマントラを唱えることで人類が築き上げてきた方法だ。それが達人でなければできなかったのを今回は科学の力でやろうとしている。

ブラボーだ!!

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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150910-00000007-mai-soci

記憶消去>マウスの学習成果消すことに成功 記憶の場特定

毎日新聞 910()90分配信

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神経細胞の一部の大きさを変えることでマウスが学習で得た記憶を人為的に消すことに成功したと、東京大学の研究チームが9日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表する。この実験で脳内で記憶をためておく場所が特定できたといい、チームは「認知症や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などのメカニズム解明に役立つ可能性がある」としている。  脳の神経細胞には、情報を伝える化学物質を受け渡す「シナプス」と呼ばれる場所があり、受け渡しが順調にいかないと記憶や認知の障害が起きる。チームは化学物質を受け取る側にある突起「スパイン」に注目。人工の遺伝子を使って、青い光を当てるとスパインが小さくなる技術を開発した。  マウス15匹を使い、足元の回転が次第に速くなる機器に乗せて走らせる実験をすると、最初は平均約2分半で落下したが、練習させると4分近く落ちずに走れるようになった。脳内では一部のスパインが大きくなったり、新しくできたりしていることが確認できた。  しかし脳に青い光を当てて増大したスパインを小さくすると、3分弱で落下した。学習により得られた記憶が消えた結果と考えられるという。チームの河西春郎・東大教授(神経科学)は「スパインが記憶の基盤を担っていると証明できた。心の機能や精神疾患の研究にも新しい道が開ける」と話す。【伊藤奈々恵】

 

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「貯蔵された記憶を可視化・消去する新技術を開発」 記憶のメカニズム解明に前進

ポイント

  • 神経細胞上の樹状突起スパインが学習・記憶に伴い増大することに着目し、新生・増大スパインを特異的に標識し、青色光でそのスパインを収縮させる事が可能な蛋白質プローブ(記憶プローブ)をマウスで開発し、学習・記憶が貯蔵されている場所を可視化・操作する新技術を世界に先駆けて確立しました。
  • 運動野を記憶プローブで標識後に青色光を照射すると、運動学習で獲得された記憶が特異的に消去され、記憶は脳内の少数の神経細胞に密に書き込まれていることが明らかになりました。
  • こうして記憶に関わるスパインの脳内の大域的な分布を標識する可能性が拓かれ、脳機能やその疾患の解明に新しい糸口が開かれました。

大脳皮質の数百億もの神経細胞はシナプス注1)を介して情報をやり取りしており、特にグルタミン酸作動性シナプスの多くは樹状突起スパイン注1)という小突起構造上に形成されます。スパインは記憶・学習に応じて新生・増大し、それに伴いシナプスの伝達効率が変化するので、脳の記憶素子と考えられてきました。しかし、記憶の獲得時に、実際に使われている多数の記憶素子の分布を同定し、実際の記憶への関与を検証する方法はありませんでした。今回、東京大学 大学院医学系研究科 附属疾患生命工学センター 構造生理学部門の林(高木) 朗子 特任講師、河西 春郎 教授らの研究グループは、学習・記憶獲得に伴いスパインが新生・増大することに注目し、これらのスパインを特異的に標識し、尚且つ、青色光を照射することで標識されたスパインを小さくするプローブ(記憶プローブ、図A)を開発しました。この記憶プローブを導入したマウスでは、運動学習によって獲得された記憶が、大脳皮質への青色レーザーの照射で特異的に消去されました。また、各々の神経細胞における記憶に関わるスパインの数を数えたところ、大脳皮質の比較的少数の細胞に密に形成されていることがわかり、記憶を担う大規模回路の存在が示唆されました。こうして、スパインが真に記憶素子として使われている様子を可視化し、また操作する新技術を世界に先駆けて確立しました。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」(平成27年度より文科省より移管)、戦略的国際科学技術協力推進事業 日英研究交流「次世代光学顕微法を利用した神経科学・病因解明につながる分子メカニズムへの挑戦」(平成27年度以降JSTからAMEDへ移管)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業および文部科学省・科学研究費の支援を受けて行ったもので、国際科学誌「Nature(電子版)」に2015年9月9日(英国時間)付オンライン版で発表されます。

<発表内容>

① 研究の背景・先行研究における問題点

大脳皮質の樹状突起スパインは学習・記憶に応じてその形態・サイズが劇的に変化し、それに伴いシナプス伝達効率が変化します。大きなスパインには多くの受容体が存在し、すなわちシナプス結合が強く、一方、小さいスパインはシナプス結合が弱いことが知られています。さらに小さなシナプスが大きなシナプスへ変換することにより長期的にシナプス結合強度が大きくなること(長期増強注2))が知られています。スパインは興奮性神経細胞の接続部の大部分を形成するので、スパインが新しく形成されたり、またその大きさが変わることにより、どの脳神経回路にどの程度の電気信号が流れるかが大きく左右されます。それ故にスパインが脳神経回路の記憶素子と考えられ、学習・記憶の細胞基盤であると推測されてきました。しかし生きたままの動物の脳内で記憶に関連するスパインを標識し、さらには操作する手法が無かったため、スパインと学習・記憶との関連は直接的には示されておらず、両者の関係はあくまでも相関があるというレベルの証明にとどまっていました。

② 研究内容

そこで、本研究グループは、学習・記憶時の長期増強に伴いスパインが増大することに着目して、長期増強を示したスパインだけを標識・操作するために、5種類の遺伝子を組み合わせた人工遺伝子である記憶プローブを設計し、生体内で記憶プローブ(蛋白質)を作り出すようにしました(図A)。その基本となるのは、PaRac1蛋白質という光遺伝学注3)で使用される光感受性蛋白質です。この蛋白質は青色光を吸収すると蛋白質の立体構造が変化し、発現しているスパインを収縮させます(図B)。そこで、PaRac1を長期増強したスパインだけに集積するように細工し、集積したスパインを蛋白質の蛍光により“見える(可視化)”ようにしたものが記憶プローブです(図A)。実際にスパインに強い長期増強刺激を与え、そのサイズを増大させると(、矢頭)、記憶プローブが長期増強スパインに集積することを確認しました(図C、右図、赤丸)。

次に、本研究グループは、青色光を与えることで生きた動物の脳内でスパインを人為的に操作できるかを確認しました。大脳皮質を広範囲に光照射するための2本の光ファイバーを両側の一次運動野表面に留置したのち(図D)、ロータロッドという運動学習課題をマウスに与えます。学習後に記憶プローブで標識されていたスパインは、光照射により退縮し(図D、右図、挿入拡大図2)、これとは対象的に記憶プローブで標識されないスパインは、光照射で影響を受けないことが確認され(図D、右図、挿入拡大図1)、光照射は記憶プローブで標識されているスパインだけを(図D、左下図)、言いかえれば学習・記憶により長期増強したスパインだけを収縮させることが可能になりました。

では記憶・学習により長期増強したスパインだけを収縮させるとどんな行動の変化がマウスに見られるでしょうか。それを確かめるために、両側の一次運動野に記憶プローブを遺伝子導入した群、対照実験として記憶プローブを導入しないマウス群(コントロールプローブ導入マウス)を用意し、どちらの群もロータロッド運動学習後に青色光の照射を行いました(図E)。光照射を行うと、コントロール群では光照射による影響は受けませんでしたが、記憶プローブを導入したマウス群は獲得した運動学習記憶に障害を受けました。学習によって長期増強したスパインを特異的に退縮させると、その記憶が障害されるということを世界ではじめて示しました。これらの研究により、スパインが学習・記憶の基盤を担っていること、そしてこれらのスパインの分布、すなわち学習・記憶が貯蔵されている場所を可視化・操作する新技術を確立することが出来ました。各々の神経細胞における記憶に関わるスパインの数を数えたところ、記憶スパインは大脳皮質の比較的少数の細胞に密に形成されていることがわかり、特異的な記憶を担う固有の大規模な神経回路の存在が示唆されました。

③ 社会的意義・今後の予定

本研究により、生きたままの脳内において学習・記憶の基盤を担うスパインを直接観察すること、さらには光遺伝学的操作で多数のスパインを広範囲にわたり操作する新技術が世界に先駆けて確立しました。この新技法を用いることで学習・記憶の細胞基盤やその正常機能の破綻である認知症や心的外傷後ストレス障害のメカニズムに大きく貢献する可能性を秘めます。

<参考図>

<用語解説>

注1) シナプス、樹状突起スパイン

シナプスとは神経細胞間に形成されるシグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位とその構造です。人の大脳皮質では膨大な数の神経細胞が約60兆個のシナプスを介して連絡した神経回路網を形成しています。シナプスは興奮性シナプスと抑制性シナプスに大別され、興奮性シナプスとは、シナプス伝達によってシナプス後細胞を脱分極させ、活動電位の発火を促進するシナプスのことです。大脳皮質の興奮性シナプスの約8割は、樹状突起スパイン(スパイン)という小突起構造上に形成され、スパインは学習・記憶に応じてその形態・サイズが劇的に変化し、それに伴い電気的伝達効率を変化させます。それ故に、スパインは脳機能の記憶素子と考えられていましたが、生きたままの個体における学習・記憶とスパインの関連は未解明でした。

注2) 長期増強

長期増強とは、2つの神経細胞間のシナプス伝達効率が持続的に向上する現象のことです。その主要なメカニズムの1つに、シナプスが神経伝達に対して感受性を増加させることにより伝達効率が向上することがあげられます。感受性の増加には、新しくスパインが形成させることや、既にあるスパインが大きくなることが知られています。

注3) 光遺伝学

ある特定の波長の光に対して構造変化をおこす光感受性蛋白質を遺伝子導入し、光を照射することにより細胞の機能を自在に操作する技術の総称。記憶プローブ内にあるPaRac1という蛋白質は、青色光を照射することによりアクチン細胞骨格系を介してスパインを収縮させることが可能です。

<発表雑誌>

雑誌名 Nature
論文タイトル Labelling and optical erasure of synaptic memory traces in the motor cortex
著者 Akiko Hayashi-Takagi, Sho Yagishita, Mayumi Nakamura, Fukutoshi Shirai, Yi Wu, Amanda L. Loshbaugh, Brian Kuhlman, Klaus M. Hahn, and Haruo Kasai
doi 10.1038/nature15257

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

河西 春郎 東京大学大学院医学系研究科 附属疾患生命工学センター 構造生理学部門 教授 Tel03-5841-1440 Fax03-5841-1442 E-mail

林(高木) 朗子 ※旧姓 林 東京大学大学院医学系研究科 附属疾患生命工学センター 構造生理学部門 特任講師 Tel03-5841-1440 Fax03-5841-1442 E-mail

<事業に関すること>

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