がん患者さんが当院にはやってくる。毎月たくさんの方が話を聞きに来て、通院されている。昨日もある患者さんがやってきた。某大学病院や某センターや某官立の病院で余命が半年しかないのでホスピスに行ってくださいと言われた方である。そのほかに来るのもほとんどがもう治療法はないといわれた方たちである。

つい先日まで普通に生活していて、体調不良があり検査したら末期だったとか、検診を受けていなかったとか体調不良があったのに検査していなかった、放置していた方たちもいる。

または数年前からがんと闘い、痛みのある手術に耐え、副作用の強い抗がん剤治療にも耐え、何とかしのいできた方たちもいる。しかし、病魔の勢いは強く検査すると進行していた、それでも、これではいけないと思い、後悔し、たばこもお酒もやめて生活を律して何とか助かりたいと思ってきた方たちだ。しかし、不幸にもガンは進行して悪化した。

そして、病院の偉い先生たちに「もう治療法はありません。あとはホスピスで過ごしてください。ここでは何も治療はないので来なくてもいいです」と言われて失望し、悲観し、あきらめの気持ちも出てきて、それでも何か治療法があればいいなという思いで当院に来院される。一様に表情はこわばり、不安が見て取れる。失望の淵から何とか希望を見つけようとして来ているのだ。

さて、毎回僕は思う。なんという言葉をかければいいのだろうか?今の日本の医学でいえば治療法はない。しかし、世界に目を向ければたくさんの治療法がある。しかし、エビデンスレベルの高い、より具体的に治療効果が高い治療といえば確かにさほどないかもしれない。

当院で採用しているビタミンC点滴療法は抗がん剤ほどは効かない。以前はビタミンCがどの程度効果があるのかデータがなかった。しかし現在は遺伝子検査や感受性検査ができるようになってきたため、その効果が検査さえすればある程度数字で表現できるようになってきた。例えばAという抗がん剤だったら75%のがん細胞が死滅するが、ビタミンCだったら45%ですとかである。(試験管のなかで)

この検査のおかげで抗がん剤もどの程度効果があるのか予想できるようになった。たいていの効く抗がん剤で最大で80%程度、効きが悪いものでは50%も効いていない。実際に臨床ではガンマーカーが下がるのは80%近く効果があるものであり、検査で50%程度だとマーカーは微増することが多い。がん細胞の増殖力にもよるが、悪性のがんの場合増殖力が大きいので50%の効果がある薬だと実際の臨床データは徐々に悪化することが多いように思う。

もし一切治療しなかったら非常に強い勢いでマーカーは上昇するだろう。だから弱い抗がん剤でもいいじゃないかと思うかもしれない。しかし、実際には抗がん剤は副作用があるからマーカーの急激な上昇は抑えられても副作用が強く出てくる。一方でビタミンCはさらに効果が弱いから効かないじゃないかという指摘もうなづける部分がある。しかし、抗がん剤とビタミンCでは決定的な違いがある。それは副作用の問題だ。ビタミンCには副作用は一切ないといってもいいほどであるが、抗がん剤は多大な副作用がある。それは毛髪の脱毛だったり、心不全のリスクだったり、手足のしびれや味覚の消失だったりする。最近ノーベル賞を取った、オプジーボという抗がん剤でも間質性肺炎という致命的な副作用が結構の確率で出てくる。この副作用で死亡する方もいるので取り扱いには厳重な注意が必要だ。さらにこのオプジーボが効く人はたったの20%である。その効果もどの程度のものか?感受性検査ではなかなかわかりにくい。勿論、改善する人もいるから意味はあるわけだ。

そうすると総合的に考えて寿命を延長するという意味ではビタミンCはなかなかの優等生だと思えるのだ。僕はだから、ビタミンC治療を有意義なものとして推奨している。患者さんにとって、もしほかに治療法がないといわれたのならば、ぜひビタミンC点滴を受けて欲しいと思っている。まだまだ若くて死にたくない患者さんに対して、医師側から一方的に余命を宣告されて、ほかに治療法がないからあとは死を待ちなさいというのは厳しい言い方だ。人間の尊厳として、もし死が避けられないものだとしても希望を持つ自由はあるだろう。その自由まで医者に決められたくはないと思う。だから肩を落として、死の宣告を受けて自分の人生に希望を持つことを止められて、患者さんは一様に暗い表情でやってくる。そして、ビタミンC点滴療法の話を聞いて顔をあげ、希望を持つことができるのだと思い晴れ晴れした顔で治療を行ってくれる。現代医学という狭い世界から出てみればいろいろな治療法があるのだ。代替医療や統合医療という方法も強力ではないが自律神経や遺伝子レベルで小さいながら変化を起こしている。そして何よりも患者さんの精神状態が大きく変わるのだ。それにより延命率も違ってくるのだから心理療法も重要な治療法だといえる。

そして医療という立場やもう少し大きく人間というものを理解するという立場であれば、統合医療の価値は揺るがない。かつては1900年以前には西洋医学が発達する以前に人類は科学的には無知蒙昧な時代があった。その当時は暗い気分が体内の血液を赤黒く邪悪なものにして病気を悪化させるというレベルの解釈だったが、今はその昔の解釈に科学の解説ができるようになっている。人間の心や心理の状態や自然の物質、また現代医学の薬物が細胞膜上のレセプターやサイトカインを介して生化学的な反応を起こしているのだ。それらは最終的には免疫系や自律神経系、遺伝子のエピジェネテイックな経路を経て治癒へと導くことがわかってきた。新しい医学の息吹が出始めているのである。