ダイエット外来をしていて患者さんの理想の体系を尋ねてみると殆どの人が平均的な体重i以下になりたいと思っているそうである。かなり太っている人にとっては平均体重や医学的な肥満でない正常範囲の体重になりたいようであるが、もともと普通程度の体重の人にとってはさらに細い体になりたいと考えている人が多い。

 一般的に理想的な体脂肪率は男性の場合

30歳未満
14~20%:適正値
25%以上:肥満

30歳以上
17~23%:適正値
25%以上:肥満

女性の場合
30歳未満
17~24%:適正値
30%以上:肥満

30歳以上
20~27%:適正値
30%以上:肥満

となっているが、実際にはもっとやせているほうがいいと思っている人が多いようである。

モデルさんなどは仕事をもらうためには165cmで48kg以下とか体重を指定されるらしい。このような体重では女性の場合運動していない人は体脂肪量がそれほど少なくはなりにくいので結局筋肉量や一時的なダイエットで血液などの体液量が少ないからだということになる。

確かにこれは我々がテレビで見るスーパーモデルなどの体を見ていても感じることだが、彼女たちは極端に体重が少なく手足が棒のように長く伸びている。おそらくは体脂肪率などは極端に低く、一般的な正常範囲を大きく下回っていることは確実だろう。ひょっとすると低体脂肪率の性で生理不順になっている可能性もある。

 しかし、実際にはスーパーモデルたちはあくまでもモデル業という仕事をしている特殊な肉体を持った人だと考えたほうがいいだろう。通常の生活を送るためにはある程度の筋肉量と血液量が必要である。しかし、それでも若い女性の多くがモデル体系を理想としていたり女性誌に載っている読者モデルさんたちの体系を見ても日本人女性の理想の体が華奢でかなり細い体を理想としていることはよくわかる。

 日本人はどのような体を理想としているのだろうか?またこれからの日本人はどのような体つきを理想の体と考えればいいのだろうか?

 体系を考えてみると日本人は戦後身長が伸びて体はかなり大きくなったようである。江戸時代の男性の身長は160cmもなかったとも言われているし、実際の残っている骨格の身長は低いようである。


 上の図を見ると解るが、なぜだかは解らないが弥生時代からは日本人の平均身長はどんどん小さくなり江戸時代末期には155cmくらいだったようである。そして戦後急に身長は伸びてきて男女とも身長は10cm程度大きくなったようである。現在男性で170cm、女性で158cmが平均のようだ。

 

 じっさい、日本人は摂取たんぱく質が少なく、戦後牛乳や肉類を食べることによってその体格を大きく変化させてきたといってもいいだろう。

 そしてこういった歴史的な体格の変化とともに、日本には相撲や武道といったスポーツの歴史もあった、なんと言っても古事記にも記載されている相撲が日本人の強い男の体系の象徴ではないだろうか?私は日本人の頭の中には西洋的な筋肉粒々でごつごつした体よりもむしろおなか周りにはでっぷりと皮下脂肪が載っていて筋肉で丸々と太っている相撲取りの体系が理想としてあるのだろうと考えている。

 歴史を紐解くと古墳時代の土偶にも相撲の原型となる様子が描写されている。

神話としては、建御雷(タケミカヅチ)と建御名方(タケミナカタ)という2柱の神が、互いの腕をつかんで投げあうという形の相撲をおこなったとされている。

 また伝説上としては、人と人の相撲の最古のものは、野見宿禰と当麻蹴速の試合と言われている。この中では宿禰が蹴速を蹴り技で倒したとされ、少なくとも現代の大相撲とはかなり異なるものであったことは明確であるけれど宿禰は相撲の始祖として祭られている。

また、垂仁天皇7年(360年頃)7月7日 には「大和国 当麻邑(たいまむら)に当麻蹶速(たぎまのくえはや)と野見宿禰(のみのすくね)という二人の試合の記録が残っている。これが一般に言う相撲の起源だそうである。

相撲の神様と称される野見宿禰

その試合では野見宿禰(のみのすくね)が勝利しその後は相撲の神と称されたようである。体系は絵を見てもはっきりはしないが少なくとも西洋の筋肉隆々ではなさそうである。

 江戸時代になると相撲選手の体系は多くの資料によってあんこ型であることが解ってきている。その体系が今に残り現在の相撲選手も同様の体系をしている。相撲というスポーつがあのような体系でないと勝てないスポーツだからであろう。

 そのような肉体の歴史を持った日本人は筋肉隆々の体を嫌う傾向にある。ボデイビルデイングやパワーリフテイングの選手、格闘技の選手と接する機会が多かった経験から言うと、彼ら筋肉の発達した体について私の職場などで話をすると一様に周りは気持ち悪いというのだ。私の勝手な意見かもしれないが彼らの周りでも同じような反応が多いという意見が多かったように思う。勿論なかには競技のファンもいるが、一般人に聞いた場合にはである。また、それらのスポーツが特殊なスポーツであることも手伝い、ボデイビルデイングの選手は実際には力はないと誤解されていたり、筋肉がつきすぎると柔軟性がなくなるという迷信が流布していることに直面した。

 今でも野球選手やその他の球技の選手たちは筋肉がつくとそのスポーツではパフォーマスが落ちると信じている人がまだいるようである。

 しかし、西洋ではその様な考えはなくむしろすべてのスポーツマンが、いや普通の人々も筋肉がついていることは悪くないと考えている。むしろ筋肉がついていることはあらゆるスポーツの基礎であると考えている。バスケットボールのマイケルジョーダンもしかり、ゴルフのタイガーウッズもしかりである。彼らの筋肉の凄さは日本人選手のそれとはまったく違っている。

 バスケットボールなどについて患者の家族や選手自身、そして指導者からも良く聞くのが筋トレをすると体が重くなるので良くないという意見だ。しかし、マイケルジョーダンの体をよく見て欲しい。反対に一緒に写っているマイケルジャクソンはまったく筋トレはしないしたんぱく質もなるだけ摂取しない菜食主義者である。ジョーダンの筋肉もトレーニングなくては発達しない三角筋(肩の筋肉)僧坊筋(頚部から肩関節にかけての筋肉)をしている。

マイケルジョーダンとマイケルジャクソン

Mail Onlineより

また、ゴルフのタイガーウッズはどうだろうか。彼の体もよく鍛えられている。ゴルフには背筋とか上腕二頭筋がよく使われるがその部分を鍛えてある印象がある。大胸筋はゴルフには関連はないが背部の筋肉とのバランスを考えて鍛えているのだろう。 

 しかし、ゴルフをしている人々の間でも日本人プロ選手の間でも筋トレをするとクラブを振れなくなるなどと言う人がいることも事実である。タイガーウッズがこれだけの体をしていることをどのように考えているのだろうか?

 また、スポーツ、野球においての神話、迷信とでもいえる話がある。巨人の清原選手が晩年怪我が多くて成績を残せなかったのは筋トレをしすぎたせいだという意見があるがこれもどうだろう?筋トレを行っていたおかげであの程度の怪我や故障で済んだのではないだろうか?問題があったとしたらトレーニングではなく怪我の治療に問題があったと私は思う。トレーニングで怪我をするほどの間違ったトレーニングをプロを指導しているトレーナーが指導することはありえないだろう。

このように日本人は筋肉に関してかなりの偏見があると思う。筋肉がついたらスポーツ選手の技術が向上しないとか、怪我をするとかである。また、一般人においても、筋肉はついてなくてもいいものであり、ついていても気持ち悪いものだという風潮があるのではないだろうか?

 しかし、お隣の韓国を見てもらったらどうだろうか?北朝鮮と分断された不幸な状況の彼らは日本人以上に昔から中国と日本、そして西洋諸国との戦いを続けてきた民族である。彼らはだから日本人と違って軍隊を持ち、(日本はアメリカによって軍隊をもてないように操作されている。本来なら賢く軍隊を持つべきだろうと私は思っている)、徴兵制を持っている。そしてかの国で作られる映画やテレビドラマでは筋肉を鍛えている男性俳優達がスクリーン狭しと暴れまわっている。その姿を見たときに私は日本人の異常なダイエットの追及には筋肉の存在がなく、病的にただやせることがダイエットだと勘違いしている日本人独特のゆがんだ肉体観があると感じるのだ。

 肉体は筋肉と骨が内臓を守り、皮膚が外界から細菌やウイルスの進入を防いでくれている。その内臓を守り活動性を高める働きを持つ筋肉を嫌ってはならない。筋肉が人間の活動の原点であり、筋肉なくしては活動もできないし体を守ることもできない。

 であるから私はダイエットの基本は筋肉の強化だと考えているし、理想の体には筋肉の強化が絶対条件だと思うのである。つまり西洋型の理想肉体を作り上げることが今の日本人にかけている考えかたであり、日本人の間違ったダイエットの根源であると考えている。

このような考え方の違いは仕方がないだろう。それは歴史の違いである。アメリカを始めとしてヨーロッパ人たち西洋人(白人)はその起源をギリシア時代のローマ人においているからである。

彼らの神話に出てくる神々、彼らの絵画に残された哲学者たちの体を見たらそれがよくわかる。

ギリシア神話はご存知のとおり紀元前15世紀の神話である。それを紀元前8世紀ごろから体系的に記述して歴史に残したのがヘーシオドスの『神統記』である。当時ホメーロスの叙事詩に記載されていた神々や、古代の逸話などを、ヘーシオドスは系統的に記述したのである。

その後古代におけるもっとも体系的なギリシア神話の記述ができたのは紀元1世紀ごろと考えられているアポロドーシスによる『ビブリオケーケー』だといわれている。

下にあるのはウイキペデイアから引用した画像だが、ギリシア神話の神々はかなりの筋肉質であったらしい。この筋肉のつき方を見る限り彼らの生活はまるでスポーツ選手のそれと同等であったと考えられる。ヘラクレスなどはベンチプレスで100kg程度は上げていないとあれほどの大胸筋や腹筋はつかないと思われる。

息子を抱くヘラクレス像(ウイキペデイアより)

ローマカピトリーノ美術館にあるヘーラクレースの子供時代(ウイキペデイアより)

また、思い白いことに神話ではなく紀元前400年台のソクラテスやプラトンを描いた絵画や彫刻に見るようにかの時代の知識人は見事な体をしている。彼らが労働をせず女性と奴隷たちに労働を任せ自分たちは政治と哲学談義に興じ、筋肉を鍛えていたらしい。絵を見る限りにおいても確かに素晴らしい均整の取れた筋肉質の体をしている。神話の神々こそ人々の理想の体だろうが、歴史上の人物に関しても同様に理想化された姿を描いたのだろうか?それとも本当に彼らのライフスタイルにトレーニングが取り入れられていてあれだけの体を作り上げたのだろうか?哲学者が筋トレをするなんてまさに文武両道であり、そこに私も学生時代に随分と影響を受けた。

 私事であるが、日本人の典型的な家に生まれた私は子供の頃から体が弱かったが空手の有段者であった父親から空手を習っていた。それなりに練習してはいたが高校生になってもまだ筋力トレーニングのことは知らなかった。学校では古代のギリシア人たちがこれだけの素晴らしい体をしていることを知ってはいたものの、実際にその頃には学校にもトレーニング器具はなく、ましてやベンチプレスという言葉も知らなかった。

 いちぶ柔道部の連中がバーベルをもって練習していたが私はもっぱら空手の型を練習していた。そして筋トレといえばブルワーカーであった。

1960年代当時のブルワーカー(ウイキペデイアより)

私の使っていたものも同じタイプであった。

 「心技体」という言葉が日本の武道には存在する。これは武道において、いや現在ではスポーツにおいてもこころの持ち方、そして競技の技術の鍛錬、そして健全で頑強な体がバランスが取れて初めて競技において優れた結果を出せる。という考え方である。日本人にはなじみの言葉である。

ギリシア人の彼らも同様に考えていたに違いないと私は思っている。理想主義を追及している過程おいて、人間の肉体の理想を考えたとき、果たして肥満して自分の体を動かすだけで疲れてしまうような体を理想と呼べるだろうか?またはやせっぽっちで弱弱しい体が理想として成立するだろうか?

 おそらく戦争が絶えなかったギリシア人たちの中にはこれらの筋肉質の体が理想の体として素直に浮かんできたのだろう。そして、日本人はその島国で他国と戦うこともない領土を奪われることもなかった時代が長かったために一般庶民は体を鍛えて強くなることに価値を見出すことはなかったのだろう。見世物としての相撲が唯一強さを感じるものだったのだろう。そして相撲という競技がそのルールにおいて巡業が可能であったことを考えると今のルールに近いある意味、相手を殺傷することを目的とはしないで地面に体がついたら負けだという、紳士的かつ平和的な競技だったためにあのような体系が出来上がったものと考えられる。

 一方ギリシア時代は戦争の連続である。ソクラテスもペロペネソス戦争に参加していたというから体を鍛えることが生き残る上で必要なことだと考えていたのだろう。

 

ソクラテスの最後(ウイキペデイアより)

プラトンのアカデミー(ウイキペデイアより)

そうすると体の理想は大昔から日本と西洋でまったく違うものを理想としており、その結果として日本人は世界的なスポーツの舞台で活躍できる体力、技術、を獲得できなかったのだと思われる。(オリンピックなどをもてもこれは明らかだろう)ここは西洋的な価値観を見習って筋肉を中心とした体つくりを目標とするべきであると私は考えている。

これは決して日本人を卑下しているわけではなく、西洋人を盲目的に崇めているわけでもない。むしろこれから歴史的に肉体の能力を日本人が向上させてゆくためには必要な考え方なのである。

 変わらなければならないのはあんこ型の体系や貧弱な体型でよしとする日本人の思想である。米や日本特有の野菜食、健康に良いとされている日本食でもギリシア人のような筋肉隆々の体になることは十分可能である。そして、現在のスポーツ界ではだんだん西洋型の筋骨隆々とした体を持った選手たちが登場している。

また、筋肉隆々ではなくても普通の人がダイエットをして自然な綺麗な筋肉のついた体を目指すことも同じプロセスから生まれるのだ。こうして今までの精神論だけで戦ってきた日本人の体つきを改善しもっと強靭な体を作り上げることが今大切だと思っている。

特に現在日本人は中国、ロシア、アメリカに翻弄され自国に対する誇りを失いつつある。これではいけない。まずは草食系の若者が増えたなどといわずに体に対する概念を変え、実際に体を鍛えることで健康で強い体を作ることからはじめようではないか。それには炭水化物と脂肪ばかりを食べるような健康体ではいけない。適度にたんぱく質を摂取し肉食系の西洋人も認めざるを得ないような健康で強い体を作り上げる必要がある。

 それには今までの日本人のように世界基準から言うと平べったい体で筋肉も西洋人と比較すると貧弱であるにもかかわらず、筋肉がつくと関節が固くなるなどと迷信を信じてトレーニングを避けているようでは進歩しないと思われる。

また、ダイエットでは筋肉の重要性がはなはだしく大きいことも付け加えておく。まずは筋肉に対する偏見をなくし、筋肉が果たす重要な役割を学んで西洋的な体を理想とする新しい日本人がこれから生まれてくることを願うばかりである。