ダイエットの運動は何をすればいいですか?と患者さんからよく聞かれる。太っている人には簡単なウオーキングからはじめるように話するし、アスリート系のダイエットを希望している人には筋トレや有酸素運動を指導している。

体重が多すぎて膝や腰に異常を訴える人には激しい有酸素運動などは指示できないのだ。また、同様に無酸素運動ができるかというと普通は膝や腰に障害がある人は無酸素運動も無理でしょうと考えられているが、実際にはクリニックでは関節リウマチで関節に変形を生じている人にも筋トレを指導している。  

その場合は等長性の運動は難しいので等尺性の運動を指導している。等尺性の運動とは関節を動かさないで筋力を発揮する運動である。古い運動器具で有名なものに、ブルワーカーというものがある。
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このトレーニング器具は筋肉を最大に収縮させた状態で約10秒間姿勢を維持し、トレーニングを行うものである。最大筋力の60%以上を発揮するには器具の使い方にコツが必要だが、よい器具だと思う。しかし、工夫次第ではこの器具がなくてもトレーニングは可能である。たとえば両手を胸の前で合わせて力を入れるトレーニングである。大胸筋が収縮することがわかるだろう。同様に大腿四頭筋のトレーニングはスクワットの姿勢で負荷をかけることで可能だ。また腹筋背筋も自分の体重で負荷をかければ十分できる。

このようにして無酸素運動をすることで筋肉が発達し、カロリーを消費しやすい体を作ってゆくのだ。

 

 ダイエットの際に重要視することは、いかに基礎代謝をあげてかつ、運動代謝をあげるかということである。そのためには実は適度な無酸素運動と有酸素運動の組み合わせがもっとも効果的である。

 筋トレを行うと乳酸が発生する。乳酸が発生するためには最大筋力の60~80%の筋力を使ったトレーニングが必要だといわれている。その乳酸が発生すると成長ホルモンが分泌しそのために筋肉量が増えるのだ。そして、有酸素運動を十分行っている筋肉は酸素消費量が多く、すなわち消費カロリーが増えるというわけである。

 では有酸素運動をするにあたって、脂肪燃焼がもっとも多い体になるには何がもっとも大切だろうか?

 まずトレーニング強度が重要である。トレーニング強度は強すぎると無酸素運動域に入ってしまい、乳酸が溜まって筋肉が動かなくなってしまう。そこで少しトレーニング強度を落としていくと乳酸は徐々に分解されてATPに変わり脂肪がエネルギーをドンドン生み出して長距離走をするためのエネルギーに換わってゆく。

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 この無酸素と有酸素運動の切り替わりのポイントをAT(aerobic threshold)

という。これは脂肪酸を使うTCAサイクル系の運動がグリコーゲンを使う原始的解糖系の運動に変化するポイントであり、このポイント前後での運動がもっとも運動強度が高くなり心拍数が上がるといわれている。勿論かつ消費カロリーも最大となる。そして運動強度がATを超えると急速に乳酸が蓄積するようになる。

このAT付近の運動をするためにはエアロバイクのトレーニングがもっとも有効である。時間がない人は実際に走ることで試すしかないだろうが、そのATを向上して行けば消費カロリーが増え、かつ運動強度が上がる、つまり有酸素運動で能力が向上するのだ。マラソンが速くなったり、自転車競技での成績が向上する。

 AT付近での競い合いはマラソンよりも駅伝のようなスプリント系の中距離走が相当するかもしれない。自転車競技で言えば40kmくらいのスプリント競技、もしくはTT(time trial)などであろう。

 ATを向上するには、最大心拍数になるだけ近い強度でのランニングや自転車トレーニングをするのがもっとも効果的だろう。最大心拍数まで追い込んで走ると、おそらく数分で乳酸が溜まってきて足が動かなくなる。その直前の領域で数分走るのである。その後休むのではなく、そのまま速度を落として走るのである。そのうちに乳酸がTCAサイクル系の代謝を受けて多くのATPを再び産生し、また走れるようになる。これを繰り返すうちに最大心拍数は大きく向上するだろう。

そのためには、栄養摂取も大切になってくる。ダイエット目的の場合だと、ボデイビル系の食事、つまり、高タンパク質、低炭水化物食が大切だが有酸素系のスポーツ能力を鍛える過程では筋肉内と肝臓内部にいかに多くのグリコーゲンを蓄えられるかでその成績も違ってくる。よく、トライアスロンやマラソンの選手が行う、カーボローデイングがいいだろう。これは実はあらゆる競技においてもスタミナを保つために取り入れられている食事方法である。

グリコーゲンをいかに上手く使うかも大切な要素となる。たとえば歩くような運動強度の低い運動ではエネルギーはグリコーゲンの分解はわずかであり、脂肪酸が多く使われる。軽いジョギングなどのように全力の50%程度の運動では運動エネルギーの50%程度が脂肪酸から使われる。トレーニングでTCAサイクル系の代謝を高度に発達させた場合、トレーニング強度が高くなってもそのエネルギー源に脂肪酸を利用することが可能となるのだ。一流のマラソン選手などは最大強度の70%の運動強度でも、エネルギーの70%を脂肪酸から供給できるという研究もある。

無酸素運動に近い運動をしていても原始的解糖系のエネルギー源であるグリコーゲンを使う比率が高くならないのである。つまり有酸素運動の訓練を積んでいるとだんだん脂肪酸を消費する能力が高まり、グリコーゲンをけちけちとゆっくり使うようになるのだ。これが長距離を疲労せずに走りきる能力といえるだろう。

ダイエットの効果を出すためにもこのようなATのレベルが高い体つくりは大切である。そのためには毎日有酸素トレーニングを強度を上げてする以外に方法はないのだろうか?実は筋トレのような瞬発系のトレーニングでも同じようにATが向上することがわかっている。不思議なことであるが、その理論はまだ解明されていない。

そして、わがダイエット外来での運動の指導は筋トレと有酸素運動でありどちらかというと筋トレを重視している。それは体のシェイプが筋トレのほうが綺麗になるからであり僕の好みのスポーツが筋トレだからでもある。(笑)