マルチビタミンミネラルはがん予防に役立つという研究です。1993年にはビタミンミネラルの高容量投与で末期がん患者が優位に余命が延長したという研究報告もあります。身近にある栄養素ですが、うまく摂取すれば抗がん作用、がん予防作用もあるのでぜひうまく利用したいものです。

 

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今月の臨床医学の専門ジャーナルに、プライマリケアにおけるマルチビタミン・マルチミネラルサプリメントのがん予防に関するレビューが、米国のグループから報告されていました。 (Postgrad Med. 2015 Jan;127(1):107-16) マルチビタミン・マルチミネラルサプリメントは、普段の食生活だけでは不足しがちな必須栄養素を念のために摂る、という保険的な意味合いに加えて、がんなどの生活習慣病や慢性疾患のリスク低減も示唆されています。 今回のレビューでは、マルチビタミンサプリメントあるいはマルチビタミンマルチミネラルサプリメントの、がん予防(がんリスク低減作用)について、ランダム化比較試験でのエビデンスが検証されました。 具体的には、米国で医師を対象に行われた、「Physicians' Health Study II (PHS II)」についてです。
PHSⅡは、中高年の男性医師(平均年齢64歳)を対象に、マルチビタミンマルチミネラルサプリメントを平均11年間投与したランダム化比較試験です。 (この研究については、JAMAへの発表時に、このお勉強ブログでも、マルチビタミンによるがんリスク低減効果として取り上げています。) 解析の結果、マルチビタミンマルチミネラルサプリメント摂取群では、全がん罹患率(あらゆるがんの発生率)が8%有意に低いというデータが見出されています。(HR: 0.92; 95% CI: 0.86-0.998; p = 0.04) サブ解析では、がんの既往がある群において顕著な効果が見出されており、マルチビタミンミネラルサプリメントの摂取により27%のリスク低下でした。(HR: 0.73; 95% CI: 0.56-0.96; p = 0.02) 論文著者らによると、PHS IIデータに基づいた試算では、マルチビタミンマルチミネラルサプリメントの摂取により、年間約68,000名のがん予防(一次予防)が期待でき、二次予防ではさらに大きい効果が期待される、と考えられます。 以上のデータから、プライマリケアや公衆衛生学の分野では、マルチビタミンマルチミネラルサプリメントの利用は、臨床的な意義があると考えられます。

 

日本のように、平均的な食生活が比較的豊かな状態では、マルチビタミンやマルチミネラルといった、機能性作用が緩徐な機能性成分のサプリメント投与による顕著な健康改善効果は実感しにくいと思います。 一方、厚労省の国民健康栄養調査では、平均的な日本人の食生活では、カルシウムの摂取不足、マグネシウムの摂取不足、亜鉛の摂取不足が報告されています。 特に、若年女性では、自己流の無理なダイエットによる微量栄養素の潜在的不足のリスクが考えられます。 したがって、過去何十年にもわたって摂取不足が示されているミネラル(カルシウム、マグネシウム、亜鉛)については、「○○の豊富な食材の○○を摂りましょう」というのではなくて、安全性、有効性、経済性(1か月分で数百円程度)のバランスに優れたマルチミネラルサプリメントを上手に利用するほうがいいと考えます。 一方、先進国の臨床研究では、ビタミンやミネラルサプリメントの投与によって、健康増進や疾病予防効果を見出した例は、限られており、多くが検出力不足でネガティブデータとなっています。 (なお、フランスの男性喫煙者では抗酸化ビタミンサプリメント投与による全がん死亡率の低下、 米国の男性医師ではマルチビタミンサプリメント投与による全がん死亡率の低下、といった効果が報告されています。) 一般に、マルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントは、食事で不足しがちな必須栄養素を補う目的で用いられます。したがって、よほど栄養状態に問題がある地域の対象者でないと、 マルチビタミンサプリメントで、がん予防や死亡率低下、という結果にはなりません。 (日本人の場合、現代の食生活では潜在的な栄養素の不足という問題は想定されますが、 マルチビタミンの投与で死亡率低下というデータまでは検出できないと思います。) (なお、マルチビタミン・ミネラルサプリメントによる抗がん作用や死亡率低下のメカニズムとしては、 ビタミンCやビタミンE、セレンといった抗酸化作用を持つ成分が、酸化障害の抑制を介して、抗がん作用および生活習慣病予防効果を示す、となります。) マルチビタミンサプリメントとがんに関して、50歳以上の米国の男性医師14,641名を対象にした研究で、マルチビタミンによるがんリスク低減効果というデータが報告されています。 (今回のレビューです。) また、マルチビタミン・ミネラルと死亡率の関係:メタ解析 という報告もあります。 なお、健康増進及び疾病予防には、適切な食習慣や運動習慣が基本であり、サプリメント・健康食品がそれらに置き換わるわけではありません。 医療専門誌によるマルチビタミン摂取の推奨論文としては、次の2つがよく知られています。 (1)NEJM誌(1998)の論説 「Eat Right and Take a Multivitamin」 『適切な食事を摂り、マルチビタミンも利用しましょう』 (神経管欠損症予防、動脈硬化性疾患予防の意義)(Oakely GP. NEJM. 1998 Editorial ) (2)JAMA誌(2002)の総説 「Vitamins for chronic disease prevention in adults」 『成人は、毎日、マルチビタミンサプリメントを摂取するべき』(先進国では欠乏症は稀であるが、至適濃度を下回ることのリスクがある。)(Fletcher.et al. JAMA. 2002 )