美容医療と保険診療

美容医療を求める人が多く感じることはどうして保険がきかないの?ということでしょう。
先日もシミ、肝斑がある方が来院されて、保険診療でビタミン剤を希望された。軽度のシミや肝斑だったのでビタミンCで治療するのは問題ないですよとお答えさせてもらった。
 すると、これから予防のためにも処方してほしいという。
う~~む。予防には保険は使えないのだがなあ、治療なら使えますが、予防では保険はききませんよ。
と説明したが、患者さんの顔には??マークが浮かんでいた。そりゃあそうだろうなと思う。治療と予防は違うといっても患者にとっては今のシミを減らしたい、これからも出てきてほしくはないと思っている。その感情の差異に自分では気が付かないのだ。

また、他院でも長期間処方してもらっていたから欲しいという。
それを聞いて軽く「ビタミンCは問題ないですよ」と言ってしまったことを実は今悔いている。
 患者さんは安心しただろうと思う。今までもらえていた医院でもう処方できないといわれたビタミン剤がまた処方でできると思ったからだ。(おそらくは長期間の大量投与だったのだろうと想像される。保険の査定で処方を認められなかったのだろうと思われる)
 私も問題ないと考えていたが、患者さんの要求はビタミンCにとどまらずトランサミンも欲しいと言い始めた。
トランサミンも以前の医院ではもらっていので欲しいというのだ。トランサミン??はてな、この薬はまずいぞと思った。
 トランサミンという薬はまず、説明しておかねばならないが、保険医療においては適応が限られている。
○全身性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向
  (白血病、再生不良性貧血、紫斑病等、及び手術中・術後の異常出血)
○局所線溶亢進が関与すると考えられる異常出血
  (肺出血、鼻出血、性器出血、腎出血、前立腺手術中・術後の異常出血)
○下記疾患における紅斑・腫脹・そう痒等の症状
  湿疹及びその類症、蕁麻疹、薬疹・中毒疹
○下記疾患における咽頭痛・発赤・充血・腫脹等の症状
  扁桃炎、咽喉頭炎
○口内炎における口内痛及び口内粘膜アフター
以上の疾患が適応になるのだが、シミ、カンパンの治療には使えないことは明らかだ。しかし、患者さんは以前はもらっていたと強くおっしゃる。だから出せるだろうと思っている。おまけに私が軽く「ビタミンCは大丈夫でしょう」と言ってしまったからトランサミンも大丈夫だろうと思っているのだ。今までも出ていたしである。
 ほかの保険医療機関で今まで処方されていたのだから大丈夫だろうと私も思っていたのだが、調べてみて適応が全く違っている。
 どう考えても目の前の患者さんは白血病ではないし、異常出血もしていない、湿疹で紅斑ができてもいないし腫脹もない。この患者さんのために虚偽の病名をつけて処方するなんてとんでもないことである。
 おまけに患者さんの本音は、「美容のために保険を使って何とか薬をもらいたい」である。
実際には保険医療は美容には使えない。シミ、ソバカス、肝斑の予防にも使えない。そういった美容医療は自費でしてください。というのが厚労省の考えである。
 しかし、今回のようにシミや肝斑を持っている患者さんにとっては治療にもなるし、予防にもなるビタミン剤やトランサミン(実はシミ、肝斑などの色素沈着にも効果はある)を保険でもらいたいという本音も事実だろう。
 どこかの皮膚科ではビタミンCやトランサミンを処方してくれるといううわさも聞いたことがある。
しかし、ここはどうしても譲れない所であった。患者さんに「ごめんなさい」謝りつつ
「トランサミンは処方できません」と言わなければならない。
患者さんにもご注意させていただいた。
「美容目的のビタミン剤の処方はできないのですよ。あなたにはシミや肝斑があるからビタミンCの処方ができるのですが、それは治療のためであって予防のためではありません、ましてや美容のために処方できるわけではありません」
「トランサミンはほかの医療機関でも今のあなたに処方できる薬ではありません、もしそれをやっている医療機関があったらそれは間違っています。」
 心苦しかったが言わないといけない事なのできっぱりお答えさせていただいた。患者さんにも美容医療には保険がきかないことを理解してほしいものである。
 それに保険診療の範囲の治療では美容効果はないと私は思っている。シミや肝斑の治療に今最も効果があるのはレーザーだろう。次にはビタミンC点滴やPRPなどであると私は思っている。
 いずれにしても数十万円の自費がかかる治療である。保険の治療とは比べられない。