抗CD47抗体という新しいがん治療薬

ウイークス先生のHPから新しい情報を得たので日本語で探していたらとてもわかりやすいサイトがあったので報告する。

http://blog.livedoor.jp/science_q/archives/1617349.html

たった一つの方法で、ヒトの乳がん、卵巣がん、大腸がん、膀胱がん、脳腫瘍、肝臓がん、前立腺がんといったあらゆるがんが治ったとしたら?そんなオールマイティーな抗がん剤へのヒントを、米・スタンフォード大学のIrving Weissman氏らは、発見したようです。CD47と呼ばれるタンパク質に対する抗体を与えられたマウスでは、移植されたヒトのあらゆる種類のがんが縮小あるいは消滅したというのです。このCD47タンパク質を標的とすることで、あらゆるがんに効く万能な抗がん剤開発も夢ではなくなるかもしれません。

 

■ CD47は貪食細胞の攻撃を防ぐ盾

 

CD47タンパク質は通常、赤血球や血小板、リンパ球といった血球系の細胞表面に存在し、身体の中で不要となった細胞を食べて掃除する働きをもつマクロファージや樹状細胞などの貪食細胞に対し、「自分を食べないでくれ」というシグナルを伝え、その攻撃から血球系の細胞を守っています。

 

Weissman氏らは、これまでヒト急性骨髄性白血病や非ホジキンリンパ腫で、CD47が正常細胞より多く発現しており、その発現量が多いほど、治療成績が悪いことを報告していました。つまり、これらがん細胞は、CD47を大量に発現することで、貪食細胞の攻撃から逃れていたというわけです。

 

今回、Weissman氏らは、このCD47による貪食細胞の攻撃回避の戦略が、血球系のがん細胞ばかりではなく、より広範な種類のがん細胞にも認められることを示しました。調べた限りのほとんどあらゆる種類のがん細胞で、CD47の発現が正常細胞より平均3.3倍以上増加し、その増加量は治療予後の悪さと相関していたのです。

 

そこで、Weissman氏らは、このCD47の働きを弱めることで、貪食細胞による広範な種類のがん細胞の除去が可能かもしれないと考え、CD47に対する抗体を、培養ヒトがん細胞に添加したところ、がん細胞に対するマクロファージの貪食作用が亢進することを発見しました。この結果に自信をもったWeissman氏らは、さらにヒトがん細胞を移植したマウスにこの抗体を投与する実験を行ったのです。

 

■ 大腸がんのサイズが3分の1に

 

その結果,大腸がんの場合は腫瘍サイズが平均3分の1以下に、膠芽細胞腫の場合は,平均8分の1程度まで縮小しました。

 

ヒト膀胱がんを移植されたマウスでは,リンパ節転移が未投与マウスで全例(10匹中10匹)だったのに対し,投与されたマウスでは1例のみでした。より転移能の高い頭頸部がんでも、リンパ節転移は未投与マウスの5匹中4匹に対し,投与マウスではゼロでした。

 

乳がんを移植された5匹のマウスでは投与によりがんが完治し,実験終了までの4カ月間,再発は認められなかったといいます。ただし,移植された乳がん細胞の由来によっては,全く効果のない場合もあったようですが。

 

以上の結果を踏まえ,Weissman氏らはCD47タンパク質の働きを抑える薬が、将来有望ながん治療薬になりうると結論付けています。

 

■ 安全性試験が今後の課題

 

ただ、この方法にはひとつ注意しなくてはならない点が予想されます。抗CD47抗体は、通常の血球細胞に発現しているCD47の働きまで抑制し、これらの細胞が、貪食細胞によって除去されるのを促進してしまう可能性があるからです。Weissman氏らは、論文の中でこの副作用による血球細胞数の低下は一時的であり、それに順応した造血機能の亢進により、すぐに平常時のレベルに戻ると報告しています。

 

一方、他の抗がん剤との併用の危険性を問う専門家の意見もあるようです。すなわち、抗がん剤によってストレスを与えられた正常細胞が、通常より多くのCD47を発現し、これらの正常細胞までが抗CD47抗体投与により、貪食細胞の攻撃を受けやすくなる可能性も考えられるからです。

 

この治療法の臨床試験のため約2000万ドル(約16億円)の研究費を獲得したWeissman氏は、それでも第I相臨床試験の開始に向けて自信満々のようです。

 

この研究成果は、全米科学アカデミー紀要電子版に3月26日付で発表されました。