“貧乏ゆすり”が軟骨が再生し痛みが緩和 変形性股関節症の意外な治療法

1/25(土) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

 歩き始めたり、立ち上がったりする際、太ももの付け根の前側が痛む。変形性股関節症は、股関節の関節軟骨がすり減ることで起こる病気だ。40~50代で発症しやすく、患者は女性が多い。軽度を含めた国内患者数は400万~500万人と推計される。治療は減量や運動、薬物といった保存療法がまず行われ、痛みが強くなると人工股関節設置などの外科手術が行われる。できれば運動の段階で症状を抑えたいが、今のところ科学的根拠が確立した運動療法はないのが実情だ。

ところが近年、注目されている運動療法がある。「ジグリング」だ。何やら難しそうなネーミングだが、実は椅子に座った状態でつま先を床に着けたまま、かかとを小刻みに動かす運動を指す。いわゆる「貧乏ゆすり」だ。患者にジグリングを指導している「銀座医院」(東京・銀座)整形外科の齋藤吉由医師が言う。

「ジグリングを習慣にすることで、病期を問わず痛みが軽減し、すり減った関節軟骨の再生が促されます。これをレントゲン写真により世界で初めて証明したのが、私の恩師でもある久留米大学医学部名誉教授の故・井上明生先生です。2005年の日本リハビリテーション医学会で発表し、その後『有効だ』との声が上がり、多くの医師が取り組むようになったのです。今ではその有効性を科学的に検証するため、久留米大学を中心に9医療施設で多施設共同研究が行われるまでになっています」

ジグリングのやり方は簡単だ。椅子に浅く座り、膝を90度以上曲げて、太ももがよく動く体勢で痛い方の足のかかとを上げてリズミカルに動かすだけ。違和感のない限り1回3分でも5分でもよく、1日の合算時間が2時間を超えるよう習慣付けることが目標となる。

「ジグリングを始めると、3カ月以内に痛みが軽減し、1~2年くらいでレントゲン写真の股関節の隙間が広がるなどの変化が表れます」

■冷え性や足のむくみも改善

むろん、すべての患者に有効なわけではない。

もともと活動的な人、肥満の人、両足が変形性股関節症になっている人などはジグリングでの改善が難しい。また、臼蓋形成不全の人も治りにくい。

「股関節は、球形の大腿骨頭を、臼のような形の寛骨臼が包み込んだ構造になっています。この臼蓋が生まれつき浅い重度の臼蓋形成不全の人も、ジグリングで治すのは難しいことがわかっています」

齋藤医師は、事前の問診やレントゲン写真などで、痛みの原因が椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症など他の病気でないことを確認した上で、上記のジグリング効果が得にくい人を除いた患者に限り指導している。その結果、7割に痛みの改善が見られたという。

「最も効果があったのは80代の女性です。左足を引きずりながら杖をつき、『これまでいくつもの医療機関を訪ねたが皆、“薬を飲みなさい”“痛くても運動しないと歩けなくなるよ”と言う。頑張って指示に従ってきたが、少しも痛みが改善しない。手術は絶対に嫌。どうにかして欲しい』とおっしゃっていました。私が運動はすぐにやめて薬も極力飲むのをやめなさい、というと『今までの指示と違う』とビックリされましたが、1カ月ほどで痛みが改善され、その後、ジグリングを1日合算4時間ほど続けた結果、1年後には旅行に行くまで症状が改善しました」

ちなみにジグリングによる改善効果は、40~50代よりも70~80代の高齢者ほど高いという。

日頃の活動量が低下しており運動療法の効果が得やすい上、時間があるのでジグリングを習慣にしやすいからだ。

それにしてもなぜ、ジグリングは股関節症の痛みを取るのか?

大阪大学の研究グループは、軽度の運動刺激は関節軟骨の修復・再生を促進するとの実験結果を報告しています。ジグリングに効果があるのは、こうしたメカニズムが働いているからでしょう」

ジグリングを行えば、軟骨再生や痛みの軽減のほかにも、冷え性や足のむくみの改善やエコノミークラス症候群の予防につながることも確認されている。

ジグリングを受けたい人は「ジグリング研究会」のホームページを見て、自宅近くの施設を確認するといいだろう。