はりきりシニアは要注意 「運動しすぎ」のリスクとは?〈週刊朝日〉

8/26() 11:30配信

 

中年以降の運動は要注意だと思う。特に若いころから運動をしていればまだしも今まで運動していない人が、急に運動するのは問題がある。

若いころから運動している人は多かれ少なかれ怪我やスポーツ障害を経験している。だから徐々に加齢によって体が無理がきかなくなってきたことを理解している。それゆえに無理するとどうなるかを思い知っているというわけである。ところが中年以降から運動を始めると、今までしていなかった分メリットばかりが目に付くだろう。血糖値が下がってきた。中性脂肪が下がってきた、等々である。

すると、知らないうちに無理をして痛みが出ても危険信号だと思わなかったり、これ以無理すると怪我するだろうなとかの想像力が働かなかったりする。

 

整形外科的には怪我、損傷などだが致命的なものとしては突然死だろう。これは循環器疾患だが、普段から検診など受けていればある程度警告が入り気にしていることも考えられる。

気を付けたいものだ。

 

僕自身も若いころからある程度激しいスポーツが好きでやってきて、身体があちこち痛みが出てきた。腰痛だけではなくヘルニアや分離すべり症の神経症状も出ている。肩関節痛もあり、膝の痛みも出てきた。ウエイトトレーニング中にケガして頸椎を痛めたこともある。思い出せばあちこち痛めている。自転車ロードレスもそうだ。派手に転倒して膝と肩を地面にぶつけてしまった事もある。

今は痛みと相談しながら運動している。無理したら後で痛むので無理しないのだ。中年以上はその考え方でいいと思う。

 

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ウォーキングや筋トレなど、日常的に運動する習慣のあるシニアは多い。超高齢化社会を迎え、介護予防や血圧の値の改善など運動による健康増進効果が注目されているからだ。運動にはプラスの効果もあるが、やりすぎは禁物。ケガや突然死のリスクを高めることにもなりかねない。

神奈川県在住のマサオさん(61)は、10年ほど前に禁煙したが、食欲が増し、気がつくと標準体重より12キロオーバー。人間ドックで診察医から指摘を受けたこともあり、一念発起してウォーキングを始めた。

 

12030分ほど歩くようになって半年。おなか周りの肉が減り、体が軽くなったマサオさんは、「よし、次はランニングにもチャレンジ!」と決意する。

 

だが、走り始めると胸の真ん中あたりに差し込むような痛みが現れた。家族の心配もあって病院を受診。医師から「狭心症の疑いがある。このまま運動を続けると命に関わる」と言われてしまった。

 

運動による血圧改善や認知症予防、介護予防など、さまざまな健康増進効果が注目され始めた昨今、多くのシニアがライフスタイルの中に運動を取り入れるようになった。厚生労働省の国民健康・栄養調査(平成28年)によると、現在、運動習慣のある人(130分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している人)は、65歳以上の男性で46.5%、女性で38.0%。国民全体の平均(男性35.1%、女性27.4%)より高い。

 

シニアの運動について、循環器内科医でスポーツドクターの真鍋知宏さん(慶応義塾大学スポーツ医学研究センター)は“やりすぎ”に注意を促す。

 

「運動は健康にとってプラスの効果が期待できるのは確かですが、例えば、高齢になるほど動脈硬化によって血管のしなやかさが失われる。もともと血圧が高めなシニアにとっては、運動不足だけでなく、過度な運動も健康を損なうリスクになりかねません」

 

シニアの運動がもたらすリスクは、皮膚の劣化や貧血、骨折、足の変形など多岐に及ぶ。

 

1万歩がいいと聞いたので、2万歩歩くようにしています!」

 

「筋トレを欠かさずやっています。鍛えないといけませんから」

 

そう言って整形外科の外来に受診してくるシニア。病院に来たのは、歩きすぎて膝や股関節を痛めたり、筋トレのやりすぎで肩を痛めたりしたからだ。NTT東日本関東病院(東京都品川区)院長補佐で整形外科部長の大江隆史さんは、そういうときには必ず「何のために運動をやっているの?」と質問する。

 

「そういう患者さんって必ず『健康のため』と答えるんですね。でも、実際には足や肩を痛めて病院に来ているわけです。高齢者は一度ケガなどで運動ができなくなると、一気に筋力の低下が進む。以前のような状態を取り戻すのはとてもたいへんなことをわかっていないんです」(大江さん)

 

リスクの中でも怖いのは、突然死だろう。

 

「ランニングやマラソンに伴うリスクという印象が強いですが、実は、これらよりもむしろキケンなのは、ゴルフや山登りです」

 

と指摘するのは、早稲田大学スポーツ科学学術院教授の坂本静男さんだ。いずれも、コンディションが悪い状態で運動することと、脱水を起こしやすい環境にあることを問題視する。

 

「ゴルフ愛好家は、朝早くに起きてゴルフ場に出かけていきますが、前日は遅くまで起きていて睡眠不足になっていることが多い。一方、山登り愛好家は体調が悪くても“下りる勇気”がなく、無理して登ってしまうのです」(坂本さん)

 

ゴルフも山登りも、屋外で長時間にわたって体を動かすため、暑い時期でなくても脱水に陥りやすい。

 

「高齢者の運動中の突然死で多いのは、心筋梗塞です。なぜ体調不良が心筋梗塞を起こすのかよくわかっていませんが、コンディションが悪いときに体を動かすと自律神経のバランスが崩れ、冠動脈がうまく拡張しなくなる。そこに脱水によってドロドロの血液が流れるので血管が詰まり、心筋梗塞を起こしやすいのではないでしょうか」(同)

 

興味深いのは、持病などがあって気を使いながら体を動かすシニアはもちろん、元気ハツラツのシニアでも、突然死を起こしやすいという点だ。油断は禁物なのだ。

 

「それまで元気だった人が、突然亡くなる。それは家族にとってとてもショックなこと。高齢になったらリスクがあると思って、気を付けながら運動をしたほうがよいと思います」(同)

 

では、シニアが安全に運動やスポーツを実践するためには、どうすればいいのだろうか。前出の真鍋さんは「自分にとって適正な運動強度を知ること」と、「その日のコンディションに合わせて運動強度を調整すること」の二つをポイントとして挙げる。

 

「残念なことに、多くの方は自己流で運動を始めるので、自分にとって適正な運動強度がどれくらいか知りません」(真鍋さん)

 

運動強度を測る指標には、「最大酸素摂取量」や「最大心拍数」などがある。最大酸素摂取量は運動中に体内に取り込まれる最大の酸素量のことで、医療機関などで専門的な検査を受けないとわからない。

 

これに対し、最も激しい運動をしたときの心拍数である最大心拍数は、「220引く年齢」という計算式が多くの人に当てはまる。65歳では155回/分、75歳では145回/分になる。

 

「シニアでは最大心拍数の5060%を目安に体を動かすとよいでしょう。運動中の心拍は活動量計などを装着すればわかりますが、それがなくても大丈夫です。“一緒に運動している人と息が上がらず、話ができる程度の運動”がそのレベルにあたります」(同)

 

これはウォーキングやジョギングといった有酸素運動だけでなく、筋トレなどのレジスタンストレーニングやストレッチでも同じ。

 

運動後の体調の変化も大事な指標となる。

 

「心地よい疲労はいいですが、翌朝までだるくて動けないとか、起き上がれないとか、そこまで疲れてしまうのは、明らかにその人にとってはやりすぎです。“ご機嫌な気分になる運動”を心がけましょう」(同)

筋力の程度から、自分に合った運動レベルを調べる方法もある。大江さんが勧めるのは、ロコモ度チェックの「立ち上がりテスト」。シニアでは「片足立ちテスト」も加えたほうがよい。

 

立ち上がりテストは下肢の筋肉の程度をみる「体重支持指数」を参考に割り出したもの。両足で40センチの高さからしか立ち上がれなければ、すでに歩行障害が起きている可能性があるので、まずは筋力や柔軟性をつける運動から始めるのが望ましい。片足で40センチから立ち上がれれば、ジョギングもOKだ。

 

相撲の四股などをヒントに考案した『相撲トレ』の著書がある大江さんは言う。

 

「『ロコモチャレンジ!推進協議会』のホームページにもありますが、筋力や柔軟性を高める方法はさまざま。どれを試してもいいですが、大事なのは、柔軟性や筋力を高めることを目的にしないこと。それによって旅行に行けるようになるとか、孫と遊べるようになるとか、そういう目標を立てることです」

 

二つめのコンディションについては、運動前の体調チェックを欠かさないこと。運動による高齢者の身体機能を研究する筑波大学体育系名誉教授の田中喜代次さんが助言する。

 

「睡眠不足や疲れを感じるときや、今年のように気温が高いときは、運動をやめるか、控えめにするべきです。『運動は毎日続けるもの』という考え方はシニアには不要。『1週間で帳尻を合わせればいい』ぐらいに構えてください」

 

薬のなかには足元がふらつくなどで転倒リスクを高めるものや、心拍を大幅に抑えるものなどがある。

 

「糖尿病だと低血糖の問題もあります。かかりつけ医がいる人は、運動を始める前に一度、伝えておくことが大事です」(田中さん)

 

運動によって健康を害する高齢者があとを絶たないのはなぜか。その背景について、田中さんは「今は医学的なことばかり誇張されている」と言及する。

 

「まず、運動、スポーツに対する考え方がずれてきていることが、一番の問題だと思います。本来、運動というのは仲間と競ったり、楽しんだり、技術を習得したり、高めたりするための活動。それによって爽快感を覚えたり、気分転換がはかれたりするわけです」