遺伝子検査は余計な手術や検査を減らすことができる。現在CTC検査を行っているが、再発していないにもかかわらず血液中にがん細胞の幹細胞が発見されることがある。この様な場合、通常なら癌の幹細胞が発育してがん細胞に育つまで治療は行われないが、幹細胞の段階で早めに治療するほうが良いに決まっている。

また、皮膚がんは紫外線にかなり可憐があるのだ。日光浴は必要のない楽しみだろう。
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2012/07/10号◆癌研究ハイライト「新検査で甲状腺癌診断目的の手術が一部不要に」「皮膚癌の原因として、紫外線曝露の影響が新たに判明」「腫瘍細胞を標的として殺傷する植物毒由来の試験薬」
http://www.cancerit.jp/17974.html

NCI Cancer Bulletin2012年7月10日号(Volume 9 / Number 14)
~日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇
・新検査で甲状腺癌診断目的の手術が一部不要に
・皮膚癌の原因として、紫外線曝露の影響が新たに判明
・腫瘍細胞を標的として殺傷する植物毒由来の試験薬
・(囲み記事)その他のジャーナル記事

新検査で甲状腺癌診断目的の手術が一部不要に
新しい検査のおかげで、悪性が疑われる甲状腺結節患者の一部は診断目的の手術を受けずにすむかも知れない。細針吸引細胞診生検(FNA)によって採取した甲状腺結節の検体について167の遺伝子の発現を分析したところ、結節が悪性であるか否かがこの検査で正確にわかることが判明した。この結果は、6月25日付New England Journal of Medicine誌に掲載された。

悪性が疑われる甲状腺結節でFNAを受ける患者の約15~30%が、標準的細胞診では癌の可能性が否定できないと診断される。つまり、細胞診において、癌の可能性があるけれども癌と断定はできない細胞変化が認められるのである。細胞診の結果が不確定である患者の多くは良性であるが、ほとんどの場合、癌の有無を判定するために甲状腺手術を受ける。

遺伝子検査は、一部患者についてそのような診断目的の手術を不要にしたり延期したりすることで、日常診療を変える潜在的可能性があると、研究者らは述べた。

この共同研究では、19カ月間にわたって、大学病院や地域病院など49施設で治療を受けている3,800人近い患者から、4,800以上の吸引生検検体を採取した。その中から、手術検体も合わせて採取できた265個の結節について、不確定診断のFNA検体を解析した。FNA検体の解析には、先行研究に基づいて開発した167の遺伝子から成るパネルを用いた。

要約すれば、遺伝子発現検査の結果を術中に採取された甲状腺検体の診断結果と比較したところ、悪性検体の92%、良性検体の93%が遺伝子検査によって正確に判定された。しかし、遺伝子発現検査によって癌の可能性が否定できない(つまり悪性とも良性とも断定できない)と判定された検体の約半数が、じつは手術検体の解析では良性であった。

細胞診の結果が不確定の患者にとって、遺伝子発現検査は「たとえば診断目的の手術に代えて慎重な経過観察を推奨するなど、重要な治療方針を決定をする際に有用な可能性がある」と筆頭著者であるブリガム&ウィメンズ病院のDr. Erik Alexander氏らは記述した。
NCI癌研究センターのDr. Ann Gramza氏も同意見である。しかし、「結果が陰性だからといって、患者の結節の監視をさらに継続することを怠ってはならない」と警告する。

「良性と判定された結節の5~10%、とりわけ細胞診判定は不確定であるが癌が疑われる結節は、悪性〔偽陰性〕のリスクがある」とペンシルバニア大学のDr. J. Larry Jameson氏は同時掲載の論説記事に書いた。そのような患者は、再度FNA生検をするか、または診断目的の手術をするのが「理にかなっているかもしれない」と説明した。

最近のある研究によれば、遺伝子検査による手術件数の減少、つまり年間約2万5000件の手術減少によって、検査費用の上乗せを加味してもなお「相当のコスト削減となり得る」と、同氏は指摘した。

皮膚癌の原因として、紫外線曝露の影響が新たに判明
太陽光が皮膚の表層(表皮)に与える悪影響はよく知られている。しかし、6月8日付Cell誌に掲載された研究結果によれば、太陽の紫外線(UV)曝露は、皮膚の下層(真皮)の細胞も変化させ、表皮の発癌のお膳立てをしている可能性がある。

この研究で、以下のことを明らかになった。日光角化症というUVが誘発するヒトの前悪性皮膚病変に似たマウスの表皮性変化を観察した。日光角化症は、ヒトの皮膚癌でもっとも多い扁平上皮細胞癌に進行する可能性がある。このマウスは、皮膚を構成する基質細胞にノッチシグナル伝達経路を持たなかった。

観察によれば、ノッチシグナル伝達経路がないというだけで、表皮に腫瘍が発生するのに十分であるようだ。ノッチシグナル伝達経路がないことに付随する炎症の増加もまた腫瘍の発症に一役買ったかも知れない。

「真皮の変化が表皮の変化と同様に重要であることを、本研究は示している。したがって、その変化に注目する必要があるだろう」と、マサチューセッツ総合病院およびローザンヌ大学に所属する研究責任者のDr. G. Paolo Dotto氏は述べた。
このようなマウスの観察結果の臨床的意義を研究するために、日光角化症患者の組織を解析した。すると、前癌病変近傍のヒト基質細胞ではノッチシグナル伝達経路が減少していることがわかった。加えて、皮膚癌の環境要因であるUVA曝露によって、それに似た分子レベルの変化が誘導された。

これらの結果から、発癌物質に曝されたときに単独の癌幹細胞ではなく、斑点状又はある領域の細胞が変化して前癌状態になる可能性を持つという広域発癌(field cancerization)現象に関する知見が得られるかも知れない、とDotto氏は指摘した。

スローンケタリング記念がんセンターのDr. Sakari Vanharanta氏とDr. Joan Massagué氏は同時掲載の論説記事で、この研究によって、紫外線曝露が遺伝子変異の原因となるだけではなく、皮膚細胞において発癌を促進する変化につながる可能性が高くなったと、この研究を賞賛した。
過剰な太陽光曝露が様々な悪影響を及ぼすことはこれまでも知られていたが、この結果から、さらにもう一つ別の悪影響がリストに加わった。「これで、日よけ対策をする理由がまたひとつ増えた」と両氏は書いている。

腫瘍細胞を標的として殺傷する植物毒由来の試験薬
正常細胞はおおむね除けながら、強力な細胞殺傷性の毒を腫瘍に送り届けることができる薬が、共同研究によって設計された。G202というこの薬は、マウスに移植された前立腺癌、乳癌、腎癌、膀胱癌などいくつかのヒトの癌を縮小し、毒性は比較的少なかった。これらの結果に基づいて、研究者らは進行癌患者を対象とするG202の早期臨床試験を開始したと、6月27日付Science
Translational Medicine誌は報じた。

G202は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)というタンパク質に選択的に結合することによって、強力な毒性成分である植物成分タプシガルギン類似体を腫瘍に送り届ける。PSMAは、ほとんどの前立腺癌で発現し高値を示す。PSMAはまた、さまざまな固形癌で血管の内側をおおう腫瘍血管内皮細胞にも存在するが、正常な血管内皮細胞にはない。PSMAは細胞膜に拡がる酵素であり、特定の箇所でタンパク質を切断することができる。

研究者らは、PSMAと結合するだけではなく、PSMAのタンパク質切断活性の標的となるようにG202を設計した。G202は不活化された「プロドラッグ」であり、PSMAにより活性化された細胞殺傷性タプシガルギン類似体がプロドラッグから放出される。この放出は細胞外の、腫瘍微小環境内で起こる。一旦放出されると、タプシガルギン類似体は近くの腫瘍細胞に取り込まれ、SERCAポンプというタンパク質を阻害する。SERCAポンプが遮断されると、細胞はカルシウム過剰となり、プログラムされた細胞死が引き起こされる。

広く用いられている抗癌剤は、一般的に急速に分裂しつつある細胞を殺傷することで薬効を発揮するが、それとは異なり「タプシガルギンおよびその類似体は、急速に増殖しつつある細胞も増殖していない細胞もともに同等の強さで殺傷することができる」とジョンズホプキンス大学のDr. Samuel Denmeade氏とDr. John Isaacs氏らは書いている。転移性前立腺癌の癌細胞はほとんど分裂していないため、非増殖細胞にも効くタプシガルギン製剤は前立腺癌治療に特に適していると指摘した。

臨床試験でヒトに投与する前に義務づけられている安全性試験によれば、G202はラットとサルで腎毒性を示したが、それは一時的で可逆的であった。骨髄抑制は従来の殺細胞性の抗癌剤に多くみられる副作用であるが、マウス、ラット、サルにおいてG202による骨髄抑制はみられなかった。
その他のジャーナル記事: HPVの攻撃を最も受けやすい細胞が発見された 6月26日付米国科学アカデミー紀要に掲載された研究によると、発癌性のあるヒトパピローマウイルス(HPV)の標的となる特定の子宮頸部細胞集団が発見された。これらの細胞は子宮頸部上皮表面の内側と外側の間の接合部に存在し、特徴的な形態と遺伝子発現パターンを示す。HPVが関与する前癌細胞や癌細胞において、これらの接合部細胞にある特異的バイオマーカーが発現していることが明らかになった。他のタイプの細胞にHPVをコードするタンパク質(HPV癌タンパク)を強引に発現させても、接合部細胞バイオマーカーは発現しなかった。さらにHPVが関与する膣、外陰部、陰茎の前癌細胞で、接合部細胞のバイオマーカーは見つからなかった。子宮頸部組織除去から数カ月後に子宮摘出術を受けた女性の組織を調べた結果、接合部細胞マーカーを発現した細胞群は、一度除去されると元に戻らないことが明らかになった。これらの知見は、除去した接合部細胞が子宮頸癌を予防する可能性があることを示唆したが、これらの細胞が女性の一生においてどのように変化するかを理解するためにさらなる研究が必要である。
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盛井有美子、大倉綾子 訳
東 光久(血液癌・腫瘍内科領域担当/天理よろづ相談所病院・総合内科)監修