交通事故後のCRPS(RSD/ カウザルギー)について

CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは

事故後に徐々に痛みがひどくなってゆき、痛みの原因とは不釣合いな激しい痛みが慢性的に続くということがあります。そのような場合は、CRPSかもしれません。手足の外傷や手術時に神経を損傷することなどによりCRPSを発症することがあります。CRPSは、焼けるような耐え難い激しい痛みがあり、通常の治療で難渋することがある疾患です。

CRPSとは、Complex Regional Pan Syndromeの略で、日本語では複合性局所疼痛症候群という病名です。CRPSは、RSD(Reflex Sympathetic Dystrophy: 反射性交感神経性ジストロフィー)及びカウザルギーと呼ばれていた疾患の総称でもあります。他にも肩手症候群やズデック骨萎縮などさまざまな名称で呼ばれることもあります。腕や足、手、脚に症状の出ることの多い慢性的な激しい痛みです。

CRPSは、次のような原因で発症することがあります。こうした原因とは不釣合いな激しい痛みを伴います。また、原因が明らかではないこともあります。

  • 外傷(軽度の場合でも十分起こりうる)
  • 手術
  • 骨折
  • 打撲
  • 脳疾患
  • 原因不明

主な症状

主な症状は、原因とは不釣合いな激しい灼熱痛です。それ以外にもさまざまな症状が現れることがあります。しかし、これらの症状すべてが現れるわけではありません。

  • 刺激を起している損傷や疾病とは不釣り合いな激しい疼痛
  • 疼痛性刺激に対する過剰反応
  • 通常なら疼痛を起さない刺激に反応した痛覚
  • 皮膚萎縮(光沢・乾燥・鱗状を示す。)
  • 多汗症
  • 浮腫
  • こわばり
  • 毛髪の成長低下
  • 患部のまだら様骨粗鬆症
  • 運動制限
  • 皮膚温異常
  • 筋萎縮
  • 爪の変化(初期は速く伸び、やがて伸びにくくなる。脆くなる。)
  • 症状の拡大

発生の機序

交感神経が疼痛に影響するメカニズムは明らかにされていません。交感神経求心性線維または遠心性線維から放出される神経伝達物質によって、侵害受容器を直接刺激することに起因するとされています。疼痛により生じる交感神経活性は、求心性C線維を活性化させることがあり、これは二次痛を増大させます。これはさらに交感神経の活性を亢進させ、痛みの悪循環が形成されます。

CRPSの診断

CRPSの診断は、原因に対して不釣合いな痛みという臨床的症状に基づいて行われます。臨床診断の助けとして次の検査が行われることがあります。

  • サーモグラフィ
  • 交感神経ブロック
  • X線検査
  • CATスキャン(コンピューター断層撮影)
  • MRI

しかし、これらの試験においてCRPS患者は正常な所見を示す場合もあります。

CRPS診療用診断基準(IASP,2005)

  • きっかけとなった外傷や疾病に不釣り合いな持続性の痛みがある
  • 以下の4項目のうち、3つ以上の項目で1つ以上の自覚的徴候がある
    1. 感覚異常:自発痛、痛覚過敏
    2. 血管運動異常:血管拡張、血管収縮、皮膚温の左右差、皮膚色の変化
    3. 浮腫・発汗異常:浮腫、多汗、発汗低下
    4. 運動異常・萎縮性変化:筋力低下、振戦、ジストニア、協調運動障害、爪・毛の変化、皮膚萎縮、関節拘縮、軟部組織変化
  • 診察時において、上記の項目のうち、2つ以上の項目で1つ以上の他覚的所見がある
  • 上記の症状や徴候をよりうまく説明できる他の診断がない

CRPS臨床用判定指標(CRPS研究会,2008)

自覚的症状(病気のいずれかの時期に、以下の自覚的症状のうち2項目以上該当すること)

  1. 皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
  2. 関節可動域制限
  3. 持続性ないし不釣り合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み、または知覚過敏
  4. 発汗の亢進ないしは低下
  5. 浮腫

他覚的所見(診察時において、以下の他覚的所見の項目を2項目以上該当すること)

  1. 皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
  2. 関節可動域制限
  3. 異痛症(触刺激または熱刺激)ないしは痛覚過敏(ピンプリック)
  4. 発汗の亢進ないしは低下
  5. 浮腫

出典

  • 国際RSD/CRPS研究財団: 標準的治療法ガイドライン 第3版. 2003年1月1日
  • Michelle H.Cameron 編著 渡辺一郎 監訳:普及版EBM物理療法 第2版.医歯薬出版株式会社,2006,ISBN4-263-21292-4
  • Merskey H,Bogduk N:Classification of chronic pain.ISAP press,1994
  • Bonica JJ:Causalgia and other reflex sympathtic dystrophies,The Management of Pain.Edited by Bonica JJ.Philadelphia,Lea and Febiger,p220