スーザン・ピンカー: 長寿の秘訣は周囲の人との交流かも

2017/11/7() 13:02配信

 

TEDという番組でカナダ人心理学者のスーザンが聴衆にむかって長寿の調査結果を話していた。

長寿の完全な方程式はないだろうが、イタリアのサルデニア島の100歳以上の長寿者たちの生活様式からみちびきだした答えは実に人間らしいものだった。

長寿を左右する習慣や食事などは何か?遺伝子はどの程度影響するのか?

 

長寿の秘訣

  1. 社会的統合
  2. 親し人がいるかどうか
  3. 飲酒喫煙
  4. インフルエンザワクチン
  5. 運動
  6. 肥満と痩せ

がその結果の様である。

 

これを見ると、人間の心が体に及ぼす影響がいかに大きいかがわかる。実際に自分とかかわる人をどれだけたくさん持つのか?そしてどれだけ接触する回数が多いのか?

社交的で人を嫌うことなくうけいれ、楽しく頼み事もできて心やすく付き合えるかが非常に大切であるという事実である。

 

医者は常々、食事や運動、医療が長寿の原因であると考えかちであるが実際の長寿者は他社とのつながりをうまく保ち、おそらくは心の状態をポジテイブに保っている人たちであることがわかる。

 

 

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   https://headlines.yahoo.co.jp/ted?a=20171107-00002842-ted&utm_source=taboola&utm_medium=exchange

Susan Pinker

翻訳

興味深い事実があります 先進国ではどこでも 女性は男性より 平均6年から8年長生きです 6年から8年ですよ ずいぶん大きな開きです 2015年の『ランセット』誌に 掲載された論文によると 豊かな国の男性は 女性に比べて どの年齢でも死亡率が 2倍高いということです

 

 

でも 世界で1カ所だけ 男性の寿命が女性と同じ 場所があります それは 山深い 辺鄙な場所で 男性でも女性でも 特に長生きする人が多い地域― いわゆる「ブルーゾーン」の1つです これがそのブルーゾーンで イタリアのサルディーニャ島― コルシカ島とチュニジアの間の 地中海に浮かぶ島です イタリア本土とは 300キロも離れていませんが 100歳を超える人の割合は 6倍です 北アメリカと比べると 10倍という高率です 男女で寿命に差がないのは ここだけです

 

 

でも なぜでしょう? 私は好奇心を かき立てられました そこで この土地の 景観や習慣を調べようと決心し 遺伝子プロファイルから始めました じきに分かったのは 遺伝子は長寿の 25パーセントしか説明できないこと― 75パーセントはライフスタイルです

 

 

100歳を超えて生きるには 何が必要なのか? 長寿者の どんな習慣が良いのか? これは空から見た ヴィラグランデの写真です ブルーゾーンの真ん中にある村で 調査に行って気づいた この村の良さは 街並みの美しさではなく― 家が密集していることです 家と家の間隔が狭く 通りや路地が 入り組んでいます つまり住民は 常に誰かと 顔を合わせる生活をしています 私が村の中を歩くと 戸口やカーテンの陰や 鎧戸の向こうから 何百という視線が こちらに向けられているのを 感じました 古くからある村は どこでも同じですが ヴィラグランデも こうした構造がなければ― 村の防壁や 大会堂や 広場がなければ― 存続できなかったでしょう 防備や社会の結びつきが 村のあり方を決めるのです

 

 

産業革命が始まる頃の都市では 伝染病の懸念が高まったことで 優先課題が変わりました でも 現在はどうでしょう? 社会的孤立が 現代の公衆衛生リスクです 自分が頼れる人は2人以下だと 3人に1人が答えています

 

 

でも ヴィラグランデに行って 100歳を超える人たちに会うと 状況がまったく違います

 

 

ジュゼッペ・ムリノは 102歳という高齢で ヴィラグランデ村に 生まれてからずっと住んでいて 社交的な人です 話をするのが大好きで 1度でなく2度経験した 世界大戦中に 森の中で食べ物を探して 命をつなぐ まるで鳥のような 生活をしたこととか やはり100歳を超えるまで 生きた奥さんと 6人の子供を育てたこととかを 小さくて心地のいいキッチンで 話してくれました ここに写っている2人の息子 アンジェロとドメニコは どちらも70代で 父親の面倒を見ていますが 調査に同行した娘と私を うさんくさく思ったことを 隠そうともしませんでした 社会的な結びつきの強さは その反面― 知らない人や外部の者への 警戒心をも生むからです でも ジュゼッペは まったく警戒していませんでした 根っからの楽天家で 人と交わることを好むタイプです そこで考えました 100歳を超えて長生きする秘訣は― 前向きな考えを 持つことなのか? 実は 違います

 

 

(笑)

 

 

ジョヴァンニ・コリアスは101歳― 私がこれまで会った中で 最も気難しい人です

 

 

(笑)

 

 

長寿には前向きな生き方が 欠かせないという考えに― この人の例は ノーを突きつけています これには証拠があります なぜそんなに長生きできたのか と尋ねると この人は垂れ下がった瞼の下から 私を見て 不機嫌そうに言いました 「誰もわしの秘密を 知らなくていい」

 

 

(笑)

 

 

でも そんなひねくれ者なのに 同居して世話をしている姪は この人のことを 「イル・テゾーロ(私の宝物)」と 呼んでいました 彼女はジョヴァンニを尊敬し 愛しており 介護ばかりで自由がないのでは? という質問に こう答えました 「あなたは分かっていないわね この人の世話をするのが 喜びなの 私の大きな特権なの 私が引き継いだ財産よ」 確かに 私が長寿の人たちの 聞き取り調査に行くと よくキッチン・パーティをしています これはジョヴァンニと姪たち― 奥にいるのがマリアで 右側は姪孫のサラです サラは新鮮な果物と野菜を 届けにきたところです ブルーゾーンの住人は 寿命を迎えるまで ずっと人々に取り囲まれて 過ごすのだと 現地に行ってすぐ 分かりました いつも周囲には 拡大家族と友人たち 近所の人や聖職者 バーや食料品店の店主がいます いつも誰かがそばにいたり 立ち寄ったりしています ぽつんと取り残されて 寂しく暮らす人はいません 先進国の生活はこうはいかず ジョージ・バーンズは こう言いました 「幸せとは 愛情深く気遣ってくれる たくさんの家族が―別の街にいること」

 

 

(笑)

 

 

さて ここまで紹介したのは 長寿の男性ばかりでしたが 女性にも会ってきました この人はツィア・テレーザ 100歳を超えているツィアは 地元の料理を教えてくれました クルルジョネスという― ラビオリに似た パスタで包む料理で 大きさはこのくらい― このくらいです 脂肪分の多いリコッタチーズと ミントを詰めて トマトソースに浸してあります 包みが開かないようにするための 正しいひだの付け方も 教わりました ツィアは日曜ごとに 娘たちとクルルジョネスを作り 近所の人や友だちに 何十個も配ります これを見て私は ブルーゾーンで100歳まで生きる秘訣が 低脂肪でグルテンフリーの 食べ物ではないと悟りました

 

 

(拍手)

 

 

さて こうした長寿の人たちの話と 科学的な研究を照らし合わせた結果 自分自身についても いくつか疑問が湧いてきました― 私はいつ死ぬのか? その日を遅らせる方法はあるのか? その答えはちょっと意外なものです ブリガムヤング大学の研究者 ジュリアン・ホルト=ランスタッドは 一連の研究で まさにこの問いを 追究しました 研究対象は 皆さんのような 中年の人たち 数万人です 彼女はライフスタイルの あらゆる面に目を向けました― 食事や 運動や 既婚者かどうかや どのくらい医者にかかるか 喫煙や飲酒をするかどうか などです 彼女はこういったすべてを記録し 後には同僚の研究者も加わって 7年間 辛抱強く待ってから どの人が まだ生存しているかを 調べました そして 元気でいる人については― 死亡する可能性を 最も減らした要因は何か? これが彼女の問いでした

 

 

では そのデータの 概要を見ましょう 長寿の要因を 可能性の低い方から 高い方へと見ていきます いいですか? きれいな空気― これは素晴らしいですが そのおかげで長生きするとは あまり言えません 高血圧の治療を受けるのは 良いことだけれど やはり強力な要因ではありません 体重が重いか軽いかは もう気にしなくていいでしょう やっと下から3番目ですから その次は どれだけ運動を しているかですが これもあまり 大きな要因ではない 心臓に問題があったため リハビリと運動をしているか だいぶ順位が上がってきました インフルエンザの 予防接種をしたか 運動よりも インフルエンザ・ワクチンの方が 命を守ってくれるなんて ご存じでしたか? 飲酒の習慣を断ったか ほどほどに飲む程度か タバコを吸わないか 前は吸っていても禁煙したか 長寿の可能性が最も高くなる 2つの要因は― どちらも社会生活に 関わるものです まず 親しい人がいるかどうか 急にお金が必要になったとき 借りに行ける相手や 体調が悪くなったとき 医者を呼んでくれたり 病院に連れて行って くれたりする人です あるいは 絶望して 生きる意欲を失いかけたとき 寄り添ってくれる人です そういう人が 何人かいてくれたら 長生きする可能性が ぐんと高まるわけです そして 私が驚いたのは 社会的統合と呼ばれるものです これは 日々の活動で― どれだけ交流があるかを指します 何人の人と話すか? これは 結びつきが強い人と 弱い人の両方についての話で 自分にとって大きな意味を持つ― とりわけ身近な人に限りません たとえば 毎日コーヒーを 出してくれる店員とか 郵便配達の人と話しますか? 毎日 犬を連れて家の前を 通りかかる女性と話しますか? ブリッジやポーカーをしたり 読書クラブに加わったりしていますか? こうした交流の有無が どれだけ長く生きられるかを予測する― 最も強い手がかりの1つです

 

 

そこから 次の疑問が浮かびます オンラインで過ごす時間が増えて たとえば睡眠など― 他のことをする時間が削られたら どうなるか? 私たちが画面を見る時間は 最大で1日に11時間近く 昨年よりも1時間増えています これが何か影響するでしょうか? じかに人と交流するのと ソーシャル・メディアによる交流を なぜ区別するのか? たとえば 自分の子のそばにいるのと いつもテキスト・メッセージで 繋がっているのは同じでしょうか? 手短に答えるならノーです 同じではありません じかに顔を合わせていると 神経伝達物質がどっと放出され ワクチンと同じように 現在のあなたも― 将来のあなたも守ってくれます 単に誰かと目を合わせたり 握手したり ハイタッチしたりするだけでも オキシトシンを 分泌するのに十分です それによって信頼のレベルが高まり コルチゾール濃度は下がるので ストレスが軽減されます また ドーパミンが作られて 気分がいくらか高揚し 痛みが和らぎます 自然のモルヒネのようなものです

 

 

ただ こういうことはすべて 意識のレーダーにかからないので 私たちはオンラインの活動を 本物の交流と混同してしまうのです でも今は 確かに本物とは違うという 新しい証拠が得られています 神経科学の知見を 少し紹介しましょう メリーランド大学の神経科学者 エリザベス・レドケイが 突きとめようとしたのは じかに人と交流しているときと 変化のないものを見ているときとで 脳内で起こることに どんな違いがあるかです 彼女は2つのグループに 分けた人たちを対象に 脳の働きを比較しました 彼女自身や共同研究者の1人と じかに交流して 自由闊達な会話をする人たちと 同じ内容について彼女が話すのを 目にしてはいるものの YouTubeのような パッケージ化されたビデオを通して 間接的に見ている人たちの 脳の活動です なお 2人の人を同時に MRIスキャナーにかけた 方法を知りたい方は 後で声をかけてください

 

 

それで どんな違いがあったのか? これは社会的交流を しているときの脳画像です じかに人と会っているときと 固定的なコンテンツを見ているときとで 脳の活動に差が あることを示しています オレンジ色の脳領域に 関連しているのは 注意と社会的知性― すなわち 他人の考えや感情 計画を予期すること― それから感情的報酬です こうした領域は 相手とじかに交流しているときの方が ずっと活発に働きます

 

 

このように脳の活動に 明らかな違いが見られることは 「フォーチュン500」企業の 採用担当者の判断に影響しているかも― 志望者の自己アピールを Eメールや書面などの 文章で読んだだけの場合より 声を聴いたときの方が その人を頭がいいと 評価したのです 私たちの声やボディランゲージには 豊かなシグナルが含まれます これは 私たちが 単なるアルゴリズムではなく ものを考えたり 感じたりする― 意識を持つ人間なのだ ということを示しています また シカゴ大学ビジネス・スクールの ニコラス・エプリーによる研究は 驚くほど単純な事実を 教えてくれています 自分の声が相手に届く場合の方が 頭がいいと思ってもらえます けっこう単純なことです

 

 

では 最初の問題に戻りましょう なぜ女性は男性よりも長生きなのか? 1つの大きな理由は 女性の方が生涯にわたって 顔と顔を合わせる関係を 大事にして維持するということです 新しい証拠によると こうした直接的な友人関係によって 病気や衰弱に対抗する 生物的なバリアができます これは人間だけではなく 霊長目の他の動物にも 当てはまることです 人類学者ジョーン・シルクによる メスのヒヒの研究では 中核となるメスの友だちがいる場合 コルチゾール濃度による ストレスのレベルが低く 長く生きて子孫を多く持つことが 分かりました 少なくとも3つの 安定した関係― 3がマジックナンバーです 考えてみてください 皆さんにも3人いるといいですね

 

 

このような直接的な交流の力は 社会的関係を 維持している人たちの間で 認知症の発症率が低いことに 表れています 乳ガンに罹った女性でも 孤独な人に比べて― 生存率が4倍も高いのは そのためです 脳梗塞になった男性も 仲間としょっちゅう会って ポーカーをしたり コーヒーを飲んだり シニアのホッケーをしたり していれば― 私はカナダ人ですからね―

 

 

(笑)

 

 

社会的接触が薬以上に 体によい影響を与えます 定期的に人と会うというのは 脳梗塞患者にとって 無理なく実行できる 効果的な方法です ただ じかに顔を合わせる付き合いが 驚くほど効果を発揮するとしても 話し相手が1人もいないという人が 今や人口の4分の1もいます

 

 

この問題を何とか しなければなりません サルディーニャ島の 村民のように 自分が所属しているという感覚は 女性だけでなく 生物として欠かせないものです 人と人との直接的な交流を 都市や 職場や 行動目標に 採り入れるようにすれば 免疫系が強化され 血流や脳の中に 幸福感を生むホルモンが増えて 長寿の可能性が高まります 私はこれを「村の構築」と 呼んでいます 自分の「村」を作って維持することが 命に関わる問題なのです ありがとうございました

 

 

(拍手)

 

 

(ヘレン・ウォルターズ)どうぞこちらへ 1つ質問があります 中間の道はないのでしょうか? 人と顔を合わせたときの 神経伝達物質の働きについてですが デジタル・テクノロジーは どうでしょう? これは飛躍的に進歩しましたよね? FaceTime(ビデオ通話)などですが 効果はありますか? たとえば 私の甥は 『Minecraft』で 対戦する 友だちに向かって叫んでいて かなり繋がっているみたいです こういうのはどうでしょう? 役に立ちますか?

 

 

(ピンカー)データはまだ 集まり始めたばかりです デジタル革命がどんどん先行して 健康データの収集は 後追いになっています だから 研究はこれからですが テクノロジーにおいても 改善できることはあるでしょう たとえば ノートPCのカメラは 画面の上部についています だから 画面を のぞきこんでいるときは きちんとアイコンタクトできません だから カメラをのぞきこむという 簡単な方法でも 神経伝達物質を増やせる 可能性があります あるいは カメラの位置を 変えてもいいでしょうね じかに対面するのと同じでなくても テクノロジーで補える面はあると思います